日本人の和の心と人類社会の未来
空前の規模で移民を入れても人口の激減がさけられない50年後の日本はどこに向かっているのだろうか。人口減少期を生き抜くために私たちは何を新しい国家目標に定めればいいのだろうか。
今と同じ世界有数の経済大国や軍事大国の地位が望むべくもないことは明白だ。そんな旧態依然の国家目標に代えて、21世紀の移民大国にふさわしい新国家理念を提案する。
移民国家・日本は人類愛で世界の移民国家のトップの座を目ざす。世界の移民政策が混迷の度を深める中、世界に先駆け、9000万人の日本人と1000万人の移民が協力し、1億の国民の心がうちとけてひとつになる人類共同体社会の樹立を国の目標とする。
それはとりもなおさず唯一の戦争被爆国の日本が、核戦争の危険が迫るなか、世界平和運動でリーダーシップを発揮することを意味する。
日本の移民国家ビジョンの究極の目標は、世界の諸民族が和の心で平和を共有する地球規模での人類共同体社会の創成である。ところが、私が日本独自の移民国家ビジョンの世界展開にチャレンジしようとした矢先、エスノセントリズム(白人至上主義)を公言するトランプ米大統領の登場と軌を一にするかたちで、米国、英国、フランス、ドイツで移民憎悪派や排外主義者たちが勢力を伸ばしつつある。
しかし、私は、和を尊ぶ日本文化の結晶である移民国家の理念が世界文明の新地平をひらく夢をいつまでも持ち続ける。遅くとも22世紀中には、平和の心をはぐくむ日本の豊かな精神土壌から生まれた人類共同体思想と世界平和哲学が人類の歴史に新しいページを開き、世界市民の心をとりこにし、世界の人々を和解に導く星としてきらめく時代が訪れるであろう。
おそらく世界の知識人の大半が、東洋の島国産の奥深い移民国家ビジョンを、実現不可能なユートピア物語と歯牙にもかけていないと想像する。しかし、坂中理論の根底には、世界の言語体系の中で極めて独自性の強い日本語の言語環境の下で育った私の心に染みこむ和の精神と、言語・文化・宗教を異にする在日外国人との交流で得た文化人類学的知見がある。世界のどの民族にも負けない寛容の心がある日本人が世界の先頭を切って人類共同体世界を創造するという私の信念はいささかも揺るがない。
すなわち、異なる民族と宗教に対する精神的な許容量が大きい日本人は、人類社会がかかえる根深い民族対立と宗教対立の問題を和の精神で平和裏に解決する知恵に長けた民族である。地球上に存在するあらゆるものに神がやどると考える日本人は、すべての民族・宗教と公平無私につきあう稀有の民族である。世界各地で燃え上がる民族感情と宗教感情を和平の心でしずめ、民族問題と宗教問題を平和的に解決する潜在能力が日本民族のDNAとして備わっている。それは全人類を和解に導く世界平和哲学である。地球上に存在するすべての人種・民族・宗教はひとしく平等であると考える日本人は、地球的規模で人類の一体感が醸成される近未来には、ほかの民族の遠く及ばぬ境地に達し、核戦争のない世界を創るという人類史的使命を帯びる立場に立っているであろう。