1. TOP
  2. 政策提言
  3. 起承転結のなった移民人生

起承転結のなった移民人生

日本革命と世界革命という命がいくらあっても足りないような問題に手を出した以上、論争をいどむ文章をタイムリーに発表して世論を味方につけるしかないと思った。それを長年続けているうちに論争的な論文を書く文章作法が身についた。時間がたっぷりある物書きは一日の時間の大半を論文の執筆に使っている。一冊の本を書き終えると、これで思い残すことはないと満ち足りた気持ちになる。だが、自己満足に浸っている時間はすぐに終わる。論文を書くこと以外に何もすることがない私は直ちに新しい本の執筆に取りかかる。法務省退職後の14年間、その繰り返しの人生を歩んできた。

2010年代の後半、「筆の勢い」というものがあることを悟った。そして筆に勢いがあるときに論文を量産しょうと思い立った。しかし、2019年のいま現在、筆のピークは終わったと感じる。新しいアイディアが生まれなくなった。書く種も尽きた。新鮮味に欠けるマンネリズムの文章が目立つようになった。あの手この手で移民政策の本質に迫り、あるいは明快で精緻な理論にしようと必死の努力を続けたが、それも限界が来たようだ。

私の本はタブーに挑戦する論文という性格上さっぱり売れない。出版社から総スカンを食っている。あるいは出版社は危険な思想家の本を出すことに躊躇する気持ちがあるのかもしれない。そこで急に思い立ち、2016年から2019年にかけて移民政策研究所刊の私家本を毎月のように出版してきた。しかし、それも力尽きた。創作意欲も衰えた。

ちょうどそのタイミングで移民政策が各方面で活発に議論される時代を迎えた。移民賛成の国民の声の高まりを受けて政府が移民開国を迫られる日は近いと時勢を見ている。

論文を書くことがすなわち生きることであった私は、論文人生以外の人生を知らない。だがよく考えてみると、生物としての人は生きる目標がなくとも生きることができる。これを機に論文の執筆という頭が疲れる仕事から手を引けばいい。移民の世界とは縁を切り、余生を楽しめばいい。息子は「お父さんは移民政策で業績を残した。これからは好きなことを見つけて長生きしてほしい」と言う。

だが、私は趣味や娯楽とはほとんど縁のなかった人間である。人づき合いも上手とは言えない。何をして時間をつぶせばいいのだろうか。移民政策以外のテーマで駄文を書き続けるのがいいかもしれない。移民政策をネタに全国各地で講演するのもいいかもしれない。藤沢周平の世界にひたるのはどうか。懐かしい名画をビデオで見るのはどうか。そのあたりのことについてはじっくり考えるとしょう。

さて、移民一筋の旅路を振り返ると、起承転結のなった移民人生といえる。世界の頂点に立つ移民国家の創建を目指した。独学で移民政策学を修めた。移民社会の理想形を描き切った。現在の私は、山積する難問をパーフェクトに解決したあとのような爽快な気分である。