1. TOP
  2. 最新作
  3. 移民社会の理想像を求めて

移民社会の理想像を求めて

 『移民社会の理想像を求めて』というタイトルの本を出版する。人類共同体哲学が生まれるまでの歩みと、人類共同体哲学の世界展開についてつづった。移民政策研究論文の有終の美を成すものになったと思う。

 世界の識者からよく聞かれる質問、たとえば「坂中英徳は何者」「人類共同体哲学とは」の問いに正面から答える論文が含まれている。

 2021年現在の移民・難民をめぐる世界情勢を概観すると、米国、英国、フランス、ドイツ、イタリア、オーストラリア、ニュージーランドなどの諸国で異なる人種と宗教に対する排他的な考えの持ち主が繁殖中である。世界は人類存亡の危機の時代に入ったのではないか。第二次世界大戦後の国際法秩序が崩壊に向かう兆候ではないか。危機感がつのるいっぽうである。最新作をもって反移民主義者や人種差別主義者がわが物顔で闊歩する世界にしてはならぬと世界の知性に訴える。

 しかしながら移民鎖国のイデオロギーを墨守している日本の国のあり方こそ、日本社会のみならず国際社会にとってもよほど大きな問題と指摘しなければならない。移民の受け入れのあり方に関して先進国が苦闘する中でひとり日本が移民鎖国の温室のなかでぬくぬく生きる時代は終わった。

 国内に目を向けると一刻の猶予も許されないほど事態は切迫している。人口危機が深まる一方の日本丸は沈没寸前の危険水域に突入した。最近の私は「これほどまで人口危機が深まると何もかも遅きに失した。もはや安楽死を待つのみ」との思いが深まる。

 たとえ日本が今後50年間で1000万人の移民を入れても3000万人の人口は確実に減る。人がいなくなった地方自治体の消滅や、人材獲得が困難になった中小・零細企業の倒産が相次ぐ。トヨタ自動車などの世界企業も専門職や技術職を確保できなくなり、国際競争力が一段と低下する。自衛隊・警察・消防も要員の獲得が難しくなって国の安全保障体制の一角が危機に瀕する。

 かけがいのない国を存続させるために私たちは何をなすべきか。何ができるのか。私の答えは決まっている。直ちに移民の入国の扉を開くことだ。世界人材を日本社会の中に取り込むことだ。国民が心を一つにして世界の鏡となる移民社会をつくることだ。それしか日本の延命策はない。

 政治家は移民の助けを求める国民の声に耳を傾けるべきだ。内閣総理大臣は移民開国を決断すべきだ。国民は「社会の一員として移民を温かく迎える日本」をつくる覚悟を決めるべきだ。

 「日本は50年間で1000万人の移民(難民を含む)を受け入れる」と世界の人々に約束する時がきた。移民・難民に寒風が吹きすさぶ中、国際社会は「人種や宗教の違い乗り越えて人類が一つになる移民国家の理念」を掲げて立ち上がる人道移民大国の出現に歓呼の声をあげるだろう。

 地球規模での移民受難時代の到来は私の身に大きな変化をもたらした。日本の移民国家ビジョンは「人類史的・世界史的意義がある」と、世界の識者が評価した。まだ一握りの大学教授とジャーナリストの評価にすぎないが、近未来には坂中理論は既存の移民国家に深刻な影響が及ぶだろう。世界の識者の間に「ミスターイミグレーション」の名が通っている私は、日本のみならず世界の移民政策の先頭に立つ必要があると考えている。

 日本オリジナルの人類共同体社会の全体像を描いて坂中ビジョンに魂が入った。その理論レベルは世界最高峰に達したと思う。たとえ当代に志を得なくとも、革命が成らずして天命が尽きても、人類共同体社会を樹立する壮図を抱いて筆をとったこの本を公にして後顧の憂いがなくなった。日本と世界の移民政策の本質について議論するときの教科書として活用されることを希望する。

 日本の移民政策研究のパイオニアが提唱する人類共同体哲学が世界の人道危機を救う光明としてきらめく時代をみすえている。人類共同体思想に関する闘論が国の内外で繰り広げられることを願う。