移民時代の足音が聞こえる

坂中提案

 法務省入国管理局に勤務していた1997年ころから、日本が10年以内に迎える人口減少社会の移民政策について真剣に検討する必要があると考えていた。人口動態と国のあり方と移民政策は密接に関連するからだ。

 そのころ法務省で会議が開かれるたびに、人口減少時代の日本の生き方として、人口が減っても移民を入れない「美しい衰退への道」と、人口の減少分を移民の受け入れで補って「活力ある社会を維持する道」のふたつの選択肢があると発言していた。その着想を理論的に発展させたものが、2004年1月の『中央公論』(2月号)に発表した論文である。

 「外国人政策は百年の計であるー目指すべきは『小さな日本』か『大きな日本』か」と題した論文は、私の移民政策論の原点である。当時、人口減少時代が間近に迫っていたので、人口減少社会の移民の受け入れについて問題提起した。

 両極に位置する理念型として、人口の自然減に全面的にしたがって縮小してゆく「小さな日本」と、日本人口が減少した分を移民人口で補い、経済大国の地位を守る「大きな日本」のふたつのシナリオを示したうえで、それぞれに対応する移民政策を具体的に論じた。

 「小さな日本」の場合の移民政策は、人口の国際移動が日本の総人口に影響を及ぼさないようにすること、すなわち日本への人口移入を厳しく制限するものである。「大きな日本」の場合は、50年間で3000万人近い数の移民を受け入れるものである。

 論文の主眼は、人口減少時代の日本の針路と移民政策の理論モデルを提示し、国民的議論を喚起することにあった。しかし、この論文は一握りの研究者と外国人ジャーナリストに注目されただけで、国民からの反応は全くなかった。

 私は、2005年から人口減少社会が現実のものになったのに移民政策が何ら議論されない状況に危機感を感じ、2007年2月9日の朝日新聞に、人材育成型移民政策による移民1000万人構想を発表した。大胆きわまる問題提起であったが、国民の移民政策への無関心な状況を変えることはできなかった。あまりにも時代の先駆けとなる国家ビジョンだったのだろう。

 しかし、ここにきて人口問題が社会の各方面で俄然注目されることになり、移民政策の氷河期が終わりを告げようとしている。『日本型移民国家の構想』(移民政策研究所、2009年)、『日本型移民国家への道』(東信堂、2011年)、『人口崩壊と移民革命』(日本加除出版、2012年)、そして近刊の『新版 日本型移民国家への道』(東信堂、2014年10月)など移民政策間連の著作を発表するとともに、昨年の春以降インターネットの世界で移民国家論を精力的に展開した。その結果、若者を中心に移民政策を支持する声が一気に高まった。たとえば、7月の移民政策研究所のホームページへのアクセス数は一日あたり約1万件にのぼった。

 日本型移民国家の構想に対する確かな手ごたえを感じている。移民時代の足音が聞こえる。近く、新媒体のネットの世界と全国紙などの活字媒体で移民開国に向けての国民的議論が活発化するだろう。

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