移民政策研究所長が歩いてきた道

坂中提案

私は2005年8月、日本が前例のない人口減少時代に入ると、移民の受け入れが喫緊の課題になると考え、人口減少社会における移民政策に関する提言作りを目ざし、民間の研究機関「外国人政策研究所」を創立した。さらに2009年4月、その組織体制を拡充した「一般社団法人移民政策研究所」を設立した。

移民政策研究所(Japan Immigration Policy Institute)は、移民に対する不当な差別または偏見の防止および根絶を図り、もって日本型多民族共生社会を創ることを目的として結成された一般社団法人である。

移民政策研究所所長の13年の歩みを回想すると、移民国家構想が国民からも知的世界からも完全に無視される時代が続くなか、日本の未来を決める責任を全うできるのだろうかと一人で悩み、なにもかもほうり投げたい気持ちになる時があった。その一方で、人口崩壊の脅威にさらされている祖国を救うため移民立国の旗を死守しなければならないと思い直す時があった。

ところが2013年の春に心境の変化が起きた。積極的な気持ちになった理由はよくわからないが、「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」の古武士の犠牲的精神を理想とする私の地金が出たのかもしれない。いずれにせよ、なぜか迷いが消え、新しい国をつくるという歴史的な役割を果たす運命を受け入れ、世界のモデル国となる移民国家像の創作に全力を傾ける心境になった。

現在は、移民国家の創始者の天職を授かった運命に従い、100年後の世界のあるべき姿を視野に入れ、日本の精神文化の粋を集めた移民国家の青写真の作成に精を出している。研究員もスタッフもいない無力な移民政策研究所の所長は、今や本職となった文筆活動でしか社会に貢献できない人間であると割り切っている。さいわい簡潔な文章で雄大な政策論を展開する文章スタイルが確立し、文章の神様が乗り移ったかのように移民政策論文を量産している。文筆家としては政策論文の創作に熟達した今がピークなのかもしれない。

2016年に書いた『私家版 日本型移民国家が世界を変える』(10月)および『私家版 東京五輪の前に移民国家体制を確立したい』(11月)に続き、2017年も、『私家版 日本の移民政策の展望』(4月)、『私家版 坂中移民政策論集成』(5月)および『私家版 移民国家の歴史を記録するのは私の使命』(8月)を世に問うた。さらに、2018年1月、これらの私家本に収録した論文の中から重要と思われるものを編集した『日本型移民国家の世界的展開』(移民政策研究所刊)を公にした。

このような旺盛な著作活動を支えるエネルギーはどこから生まれたのだろうか?いつもより筆が走ったように感じられるが、それはいよいよというときに出てくる人間の底力なのかもしれない。

今度ばかりは本を書かなければならない特段の理由があったわけでも何でもない。論争的な論文を書くことが趣味となった人間の悲しい性なのかもしれない。あるいは世界の主要国の反移民の動きに対抗する倫理的高揚感ないしは使命感なのかもしれない。はた目にはすらすらと文章を書いているように見えるかもしれないが、国家政策に関わる論文の重要性に鑑み、一字一句にまでこだわって慎重に筆を進めた。何はともあれ、気の向くまま書いた文章が積もり積もって私家本六部作に結実した。

私家本という本の性格上、当代の知識人の誰からも注目されることなく、後世の日本人への遺書として忘れ去られる運命にあるのだろう。それでも自分の思いをすべて吐き出してよかったと思っている。何よりも「日本型移民国家への道」を記録に残して後顧の憂いがなくなった。

以下は、この13年間に発刊した移民政策関係の著作一覧である。移民国家構想の骨格部分は変わらないが、人類共同体思想など新鮮なアイディアが加わり、問題意識が世界の移民政策のあり方にまで広がり、思想が深化し説得力が増したと思っている。これらの著作集の全体が、日本が目標とすべき移民国家の理論体系の根幹を成す。

この移民政策論文選集が、日本が移民国家を創建する際の手引書・参考文献として利用されることを切に願うのみである。そのうちの2冊の英文図書は近未来の地球時代に生きる世界市民が手に取る愛読書になるかもしれない。なかんずく日本型移民政策論の核心部分の人類共同体思想が世界の人々に深い感動を与え、世界の普遍的理念の一つとして光り輝く時代を夢に描く。

① 『脱北帰国者支援は私の使命』(脱北帰国者支援機構、2005年)

② 『移民国家ニッポン――1000万人の移民が日本を救う』 (共著、日本加除出版、 2007年)

③ 『日本型移民国家の構想』(移民政策研究所、初版2009年6月、増補版同年9月)

④ 『Towards a Japanese-style Immigration Nation』(移民政策研究所、2009年)

⑤ 『北朝鮮帰国者問題の歴史と課題』(共著、新幹社、2009年)

⑥ 『日本型移民国家の理念』(移民政策研究所、2010年)

⑦ 『日本型移民国家への道』(東信堂、初版2011年、増補版2013年、新版201 4年)

⑧ 『人口崩壊と移民革命――坂中英徳の移民国家宣言』(日本加除出版、2012年)

⑨ 『Japan as a Nation for Immigrants :A Proposal for a Global Community of Hum  ankind』(移民政策研究所、2015年)

⑩ 『日本型移民国家の創造』(東信堂、2016年)

⑪『私家版 日本型移民国家が世界を変える』(移民政策研究所、初版2016年10月、 改訂版2017年2月、新版同年6月)

⑫『私家版 東京五輪の前に移民国家体制を確立したい』(移民政策研究所、初版201 6年11月、改訂版2017年3月、新版同年9月)
⑬ 『私家版 日本の移民政策の展望』(移民政策研究所、初版2017年4月、新版同年 10月)
⑭ 『私家版 坂中移民政策論集成』(移民政策研究所、初版2017年5月、新版同年1 1月)
⑮ 『私家版 移民国家の歴史を記録するのは私の使命』(移民政策研究所、初版2017 年8月、新版同年12月
⑯『日本型移民国家の世界的展開』(移民政策研究所、2018年1月)

 

人口激減時代の生産人口と消費人口を補うため、いったいどのくらいの移民を受け入れる必要があるのか。移民にどんな産業分野・職種に就いてもらうのか。どのような仕組みで移民を受け入れるべきか。どの国からどのくらいの数の移民を入れるのが適当か。政府は移民をどのように処遇する必要があるのか。日本人と移民がひとつの国民としてまとまる社会をどうすればつくれるのか。

以上のような問題意識に基づき移民国家の原理の究明に努め、前記16冊の本を刊行した。だが、移民政策に対する国民の理解が深まることを念願して公刊したこれらの著作物は論評の対象にすらならず、移民政策は国民の口にのぼらず、あたかも砂漠に水を撒くような不毛の時代が続く。

ところが突然、時代の流れが変わった。2016年を境に、私の業績の一部が認められる時代に入った。『日本型移民国家の創造』(2016年4月刊)を読んだ政界・官界・経済界の有力者から「移民政策を推進すべし」との声があがった。

2016年8月3日、野田一夫先生の呼びかけで政治家、官僚、経済人など友人諸氏が集まって、この本の出版記念会が開かれた。移民政策に理解のある国会議員五人の参加があり、自民党、民進党(当時)、公明党の各会派の政治家から「坂中英徳の労を多とする」という身に余る言葉をいただいた。

そのとき、移民政策は政治家が超党派で取り組むべき命題になると確信した。「日本型移民国家の創造」が日本の政治課題と認知されたその日ことを忘れない。

 

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