移民政策が日本を元気にする

メディア 坂中提案

以下に掲げる論説「移民政策が日本を元気にする」は、2011年6月15日のウォ―ル・ストリ―ト・ジャ―ナル(アジア版)のオピニオン欄に「An Immigration Stimulus for Japan」の表題で投稿した英文原稿の元になった日本語原稿である。投稿してから9日間で英訳のうえ掲載されたことを覚えている。東日本大震災の年の6月初旬、この日本語原稿を一気に書いた。私にとって初めて海外のメディアに載った政策論文である。ここに再録する。
なお、その翌週の6月22日、同紙の社説「日本再興の新政策」は、坂中英徳が提唱する「革命的な移民政策」に対する支持を表明した。

〈まさに今、誰かが日本革命の道を示し、それを断行しなければ、日本全体が悲劇に見舞われる。日本人口の高齢化に伴い、日本政府の経費を支える国家財政が破綻する――過去に貯蓄に励んだ国民は国債の購入をやめ、代わりに年金生活のため貯蓄を取り崩す。〉

〈先週の本欄で坂中英徳が指摘したように、生産年齢人口の減少が革命的な移民政策を迫る新たな圧力になるだろう。外国人政策の改革も必要である。特に、出稼ぎ労働者ではなく、永住外国人を迎える移民政策への転換が不可欠だ。〉

             移民政策が日本を元気にする
 

 最近の経済指標は、東日本大震災が起きた2011年3月11日以前から日本がすでに景気後退におちいっていたことを示している。天災の直撃を受けて政府と企業が復興資金の調達を模索する中、日本経済を成長軌道に乗せる重要性が増している。この難問への取り組みが喫緊の課題であることを考えると、経済成長を促すいかなる政策も総動員すべきである。その政策の中には、議論を呼ぶが、しかし不可欠な「移民政策」が含まれている。

 あまり語られることはないが、「人口」は日本が直面する諸問題の根底にあるものだ。出生率の低下と人口の高齢化は、若くて生産性の高い就業者が消えていくことを意味する。現在の現役世代が引退し始めると、それが更にはっきりする。日本政府が人口崩壊をとめる根本的な対策を講じなければ、生産、消費、税収、財政、年金、社会保障、そして国民生活が、高齢化する日本人口と激減する若年人口という二つの抗しがたい圧力につぶされてしまい、日本は全面崩壊の危機に瀕する。

 日本が崩壊をのがれる唯一の対応策は、国民が移民を歓迎することである。わたしは、人口崩壊の悪影響を最小限におさえるため、日本は50年間で1000万人の移民を受け入れる必要があると主張している。その結果、移民の数は人口の10%になり、現在の英国、フランス、ドイツと同じ水準になる。

 これだけの規模の移民が入れば、衣食住、教育、雇用、金融、観光、情報などの分野で新たな市場と需要が創出され、少なくとも移民人口分の経済成長が見込まれる。確固とした方針に基づき移民政策を展開すれば、海外の投資家による日本経済の長期見通しの評価が高まるだろう。移民送り出し国との人の交流が活発化し、新たな好循環が生まれるだろう。

 移民は日本の最も重要な産業を再活性化するうえで大きな役割をはたす。たとえば農業。農林水産省によると、日本の農業就業人口は2005年から2010年までの5年間で75万人減り、わずか260万人になった。その平均年齢は65・8歳である。

 10年を待たずして農業人口が半減するのは確実だ。漁業も同じ運命にある。漁業人口と漁獲量は同じ方向、つまり急減へ向かっている。

 このような人口動態の影響は、東日本大震災の余波に苦しむ宮城県の稲作地帯などですでに見られる。抜本的な改革を行わなければ、高齢者が中心の農民による再建は遅々として進まない一方で、若年層の農業離れが続き、農業人口の減少が加速する。老い先の短い日本人の労働力のみに頼っていては、農業の再建は不可能である。

 移民が必要な地域は、震災に見舞われた地域にかぎらない。日本産業の心臓部で、トヨタなど日本を代表する企業の本拠地がある愛知県もそうである。地域経済を支えてきた生産労働力人口が減少の傾向にある。2000年から2009年までの9年間において、全体の人口は減少していないが、15歳から64歳の生産年齢人口は全体の69・8%から65・5%に低下した。生産人口の減少は、稲作の中心地の新潟県や、世界有数の漁場の三陸沖沿岸地方でも見られる。

 問題は就業者の数の減少にとどまらない。それよりもっと深刻な問題がある。経済界をはじめ政治、行政、教育、ジャーナリズム、学術などの分野で人材が枯渇しつつあることだ。ただでさえ均質性の高い社会であるのに、それに輪をかけた画一化教育で育った日本人は自由な発想ができない民族になってしまったのだ。海外から新鮮な感覚の人材を補強しないと日本の国力はますます低下する。

 日本が昔から単一色の濃い社会であったことを理由に、移民が入ってくると日本の伝統が壊されるという人がいる。しかし、移民政策が日本の価値や文化を損なうことにはならない。政策立案者に移民政策を推進する強い意思さえあれば、移民を上手に受け入れる方法を見つけることができる。

 移民政策で重要なことは、専門技術職の移民をひきつけ、移民を社会に融和させる方針を確立することだ。まず留学生受け入れ制度を改革する。現在、留学生が日本に永住できる可能性は少ない。日本の大学を卒業後日本にとどまる留学生はわずか30%だ。この数字を70%近くまで引き上げる。

 政府は、農業など幅広い産業分野で移民に働いてもらうため、留学生をもっと多く受け入れる必要がある。就職が決まった留学生には速やかに永住の資格を与える。すなわち「移民」という最も安定した地位を保障する。永住許可や国籍取得の手続きの簡素化も必要である。少なくとも定職を持つ外国人の永住許可の申請を認めるべきだ。人口が減少する国に出稼ぎ労働者はいらない。

 移民関連の政策はその実現に時間を要するかもしれない。しかし、これはやり遂げなければならない。政府は、キャリアの途中で外国から移住してくる勤労者をカバーできるよう年金制度を改革する。国籍法を改正し、移民の子供には生まれた時に国籍を与える。行政は企業文化の変革を働きかける。たとえば、外国人は給与や昇進の面で差別されているが、そのような慣行をやめるよう民間企業を指導する。家主は外国人の借り主を歓迎する。

 移民関係の改革は大がかりなものになるだろう。しかし、それによって日本人の生活の良質な部分が害されることにはならない。たとえば、政府は移民の日本語学習を奨励する。そうすれば移民と日本人との融和が進み、移民の子供は流暢に日本語を操れるようになる。
外国人は怖いというイメージを抱く人がいるかもしれないが、専門技術を有する移民を受け入れ、移民とその家族が社会と経済の発展の恩恵に浴すれば、移民は公共の安全を脅かすものにはならない。

 日本は「地球社会」の時代に入ったことを認識しなければならない。世界の諸民族を移民の地位で迎え入れ、多文化で多様性の豊かな社会に自らを変えることに生き残りをかけるべきだ。これは国家的大事業に発展するだろう。しかし、日本が安易な解決策で済ませられる時代はもう過ぎ去ったのだ。

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