移民国家日本はハイブリッドジャパンをめざす

坂中提案

私の手元に『二十世紀の意味―偉大なる転換―』(K・ボールディング著、清水幾太郎訳、岩波新書、1967年)がある。1960年代の学生時代、繰り返し読んだ本である。赤線や青線がいっぱい入っている。

特に、次の部分は赤線と青線が重ねてひいてある。このくだりから大きなインパクトを受けたものと思われる。

〈人類の諸人種は互いに十分な性的魅力があるため、遺伝的混合に特別な地理的あるい は文化的障碍がない限り、数千年の間に人類が人種的に単一のものになる可能性が非常 に大きく、諸人種間に現存する相違の多くは、除かれることになるであろう。〉

入管時代もこの箇所を何回も読み返した。そして出入国管理行政と国際結婚の関係について深く考えるようになった。また、在日韓国・朝鮮人と日本人の婚姻件数の動向を注視するようになった。

人類という種社会で互いが異なる人種の性的魅力にひかれて混血を重ねてゆく人類像。その結果人類の多様性が次第に失われてゆく未来像。そして1000年以上先の地球上には人種・民族・国籍の垣根がなくなって地球市民が誕生。

私はボールディングの名著に触発され、20代の頃そんな空想にふけっていた。そして今日、移民政策研究所の所長として人類共同体構想を熱心に提唱している。

ボールディングが言うように、現代の人類は人種的に一つになる方向に向かって進んでいるのだろうか。

少なくとも今日の世界の若者の生態から認められることは、国境をまたいで年間数億人の人々が移住する「大量国際人口移動」の時代に入り、異なる民族間の結婚と混血が爆発的に増えているという事実である。日本の若者も例外ではない。国際結婚の数では世界の先頭グループを走っているのではないか。

日本が移民政策を成功に導くための有効な方法の一つとして、日本人と移民の婚姻関係を積み重ねてゆくことと、両者の血縁関係を深めてゆくことを提案したい。

大きな論争を巻き起こした坂中論文において私は、在日韓国・朝鮮人と日本人の関係改善のメルクマールとしての婚姻関係の推移と、それと相関関係にある混血者(子)の人口動向に注目した。およそ結婚は、個人の自由意思に基づき互いに好意を寄せ合う人が結ばれるものである。在日コリアンと日本人の結婚の増加は両者の関係が緊密になったことの証明であり、その結婚から誕生した子(混血者)は両者の和解の象徴であると理解した。

1977年に発表した坂中論文の「在日朝鮮人の処遇」の項で、在日コリアンと日本人の結婚の増加と彼らの子供の将来動向について、次のように述べている。

〈在日朝鮮人は血縁的にも日本人との関係を深めてきており、このままの趨勢が続けば、 数世代を経ないうちに在日朝鮮人の大半が日本人との血縁関係を有する者になることが 予想される。〉

坂中論文以降の婚姻の動向を見ると、在日韓国・朝鮮人が日本人と結婚する割合の伸びは論文が予言した以上の速さで進行し、今日では90%を超える在日コリアンが日本人と結婚している。

戦後の在日韓国・朝鮮人と日本人の歴史――つまり当初は厳しい対立関係にあったこの二つの民族が、婚姻関係の広がりを通してその関係を改善させた歩みは、来るべき大量移民時代において多民族共生モデルとして語り継がれることになろう。

以上のように社会の少数者と多数者の間の婚姻・血縁関係が劇的に進展し、いわゆる少数民族問題が短期間に平和的に解決された事例は、世界のマイノリティの歴史にもほとんど例がないのではないか。

ところが変わってヨーロッパの主要国においては、ヨーロッパ人の心の奥に人種的偏見と宗教差別があって、国民と移民との婚姻関係はあまり進んでいないようだ。

ドイツは戦後、数百万人のトルコ人を外国人労働者で入れたが、ドイツ人のトルコ人との結婚の比率は1%以下と異常に低い。同じアングロサクソン系の民族であるイギリス人の国際結婚の比率もドイツ人と同じ低水準である。

フランス人のアフリカ系フランス人との婚姻率は20%を超えると聞いている。フランス人の民族差別はひどくないので、フランスは多民族共生社会への展望が開ける国である。しかし、イスラム恐怖症の克服という難問が残っている。

16世紀のスペイン・ポルトガルのキリスト教徒たちは、両国が植民地支配した南米大陸で原住民の大量虐殺を行った。それだけではない。今日の南米諸国に見られる国民の民族的構成、すなわちスペイン人とポルトガル人が強姦した原住民の女性の子孫が国民の多数派を占める歴史的惨事をもたらした。

近世から20世紀半ばに至るまで、ヨーロッパ人が、宗教、人種、風俗等の異なる民族を、時には人間以下のものとして、少なくとも自分たちよりも劣等の民族として扱ってきたことは、世界人権史の汚点として残っている。

日本における国際結婚の動向を見ると、前述したように在日韓国・朝鮮人の結婚相手の圧倒的多数が日本人であることに象徴されるように、人種・民族・宗教・国籍の違う人と結ばれる日本人の比率が比較的高い。

近年、喜ばしい出来事があった。日本人と黒人の間に生まれた日本人女性がミスユニバース日本代表に選ばれたことだ。日本人の美人観が、人種の違う父母から生まれた混血児を美しいと思うインターナショナルなものに変化したことに驚きを禁じ得ない。

最近、私の親しい若い人たちの中にも、人種の異なる人と結婚する例が目立つ。人種の違う人に魅力を感じる若い世代に移民国家ニッポンの明日を託す。人種的・宗教的偏見がほとんど見られない日本人は、移民が最も住みやすい国――すなわちハイブリッドジャパンをつくる可能性がある。

国が移民の入国の扉を開けば、世界各地から色々な容貌の美男美女が日本に移住してくるだろう。いっぽう、日本の若者も移民を惹きつける魅力がある。幕末から今日まで、西洋の知識人が日本女性の美徳と浮世絵の美人画イメージを世界中に広めてくれたので日本女性は世界の男性の憧れの的である。世界の人々の頭の中に禅と侍の印象がインプットされている日本男児も負けていない。

以下は私が夢のなかで見る100年後の日本の姿である。

〈移民開放政策を貫いた結果、2000万人の移民が日本で生活し、日本の若者と世界 の若者の結婚がごく当たり前になり、魅力的な混血児が続々誕生している。移民国家ニ ッポンは世界の先頭を切ってハイブリッドジャパンへの道を歩んでいる。〉

 

 

« »