移民国家の理想像を求めて

坂中提案

国家公務員を辞した2005年に発表した『入管戦記』(講談社)の第10章(「小さな日本」と「大きな日本」)において、「日本が世界のモデル国となる」と題し、次のように述べた。

〈人口減少問題はヨーロッパの一部の国ですでに経験しているところであるが、日本ほど事態が急激に進み、問題の深刻な国は世界に例を見ない。この問題を考えるに当たっては、モデルとなるような国は存在しないといわなければならない。したがって、日本が世界の先頭を切って、人口減少時代の国のあるべき姿を検討し、その未来像を示さなければならない。日本国の決める人口減少社会への対応策が、未来の世界によい先例を開くものであってほしいと願うものである。〉

いま改めてこのくだりを読み返してみて、これは役人生活を終えて新しい人生を歩むに際しての決意表明だと思った。問題提起を行った責任をとり、私は2005年8月、世界のモデルとなる移民国家の創造を目標に掲げて外国人政策研究所(現在の移民政策研究所の前身)を設立した。そこにこもって日本の外国人政策を根本的に見直す作業を進めた。そして、2016年秋の『私家版 日本型移民国家が世界を変える』の刊行をもって、世界の移民政策のモデルとなる移民国家の理論の完成を見た。

さて、老年に達し、何事も運命として受け入れる心境になった。日本民族が地球上から消えてゆく危機を救う大義に殉ずる決意を新たにするとともに、坂中構想の先途を思うことしきりである。

移民国家の道が一段と険しくなり、予期せぬ難問が待っているかもしれない。想像を絶するプレッシャーが我が身におそいかかるだろう。移民に消極的な姿勢の政治の壁を突き破れるか。一人旅が続く中、無理に無理を重ねた心身が激務に耐えられるか。トランプ米大統領が唱える移民排斥の考えが世界中に蔓延するのではないか。そして人類共同体をつくる日本人の夢がついえるのではないか。そんな悪夢にうなされる時がある。

すると直ぐに、弱気の虫を打ち消す強気の虫が出て、この期に及んであれこれ心配してもしょうがないと気力をふるい立たせる。するとまた、当代の日本人の誰かが移民国家体制を確立しなければ、「平成の日本人が日本を二流国家にした」と、50年後の日本人から糾弾されるのではないか、そんな脅迫観念にとらわれる。

心の葛藤は簡単にはおさまらない。だが、わたしは生まれつきのオプチミストである。世界が移民政策で激動の時代に入った今こそ、世界の知識人から「ミスターイミグレーション」の名前で呼ばれる坂中英徳の真価が問われる時だと判断し、最後の力をふり絞って前に進もうと決心した。

以下に今後の行動指針を述べる。(1) 多くの人との出会いがあり、多くの人の協力があって今の自分があることを忘れず、天から授かった使命をまっとうすること。(2) 天は移民政策に味方すると信じ、天の時を待つこと。(3) 人種・宗教に対する寛容の心がある日本の若者の移民受け入れ能力の高さを世界の人々にアピールすること。(4) 自分のやったことが称賛される前のタイミングで身を引くこと。そういう晴れがましい舞台は自分には似合わないと肝に銘じること。

以下は、八百万の神々を信じている日本人が心をこめてつくる移民国家の未来像である。

〈地球市民の教養を身につけた日本人が、移民と力を合わせて、世界各国の手本となる移民国家の創建をめざして奮闘している。日本人の和の心の結晶である人類共同体思想が世界の人々の共感を呼び、近未来の世界の普遍的理念の一つとしてきらめいている。〉

 

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