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移民国家の創始者冥利に尽きる

1975年に『今後の出入国管理行政のあり方について』という論文を書いたのが契機となって移民政策研究一本の道を歩むことになった。一本の論文が一人の国家公務員の生き方を決めた。

その日から45年の月日が過ぎた。その間、坂中論文の名に恥じぬよう懸命の努力を重ねてきた。その結果、坂中論文の究極の発展形態と言うべき移民国家ビジョンが、人口ピラミッドが崩壊する日本の未来を決める国家百年の大計に発展した。

坂中論文以後の努力の結晶が40冊余の著作である。これらの作品はすべて国のあり方を根本から問うものである。中でも役人を辞めた2005年以後に書いた25冊余の著作は移民国家の創建を視野に入れた移民立国論である。

2020年の今は、ルーチンワークとして、移民政策研究所のホームページの「政策提言」欄に短文を掲載している。ここ最近は毎日5000人ほどの人がそれを読んでいると承知している。この人たちは私が最も大事にしなければならない「読者」である。ネット時代の前は、いい政策を書くことしか頭になかった。最近の私は、ホームページを訪れる読者の存在を意識して文章を書いている。かつての私はより精緻な理論レベルの移民政策、新しいアイディアを盛り込んだ移民政策を立案することに重きを置いていた。今の私は移民政策の中身をネット社会の読者に理解してもらうことが大切だと考えている。表現方法やタイトルの付け方などにもおのずと変化が見られると思う。

もっともその中身はと言うと、テーマも移民政策に特化し、マンネリズムの極まる文章ばかりである。もうこの年になると新鮮な発想は出てこない。移民政策のアイディアマンとしての限界が来たことは自分が痛いほどわかっている。しかしながら、文筆に親しむこと以外に生きるすべを知らないので、死を迎える直前まで小論文を書き続けたいと思っている。今しばらく退屈な坂中論文との付き合いをお願いする。

付言すると、それらの短文が相当量に達すると、それを一冊の本にまとめて、移民政策研究所発行の私家版として100冊ばかり印刷し、それを友人諸氏に謹呈している。ちなみに、2016年以降に書いた私家本は12冊に及ぶ。これらはすべて憂国の情がつまった遺言書のような本である。

一生を論文になぞらえると、移民国家のあるべき姿を追い求め、起承転結のなった人生であったと言える。学問としての移民政策学をきわめた。世界の最先端をゆく移民政策理論に基づき気宇壮大な移民国家ビジョンを展開した。

私の移民政策論文集は、砂漠に花を咲かせるような高踏的な理論のかたまりということもあって、世間一般から認知されることはなかった。きわめて少数の友人と移民政策研究所の7人の理事以外に、坂中移民政策論の真価を認める日本人は現れなかった。生前の評価はどうであれ、自由奔放に生き、好き放題に論文を書き、移民国家の創始者冥利に尽きる人生であったと、わたしは心の中で思っている。