私たちは移民国家のモデル国をめざす

国家公務員を卒業した2005年に発表した『入管戦記』(講談社)の第10章(「小さな日本」と「大きな日本」)において、「日本が世界のモデル国となる」と題し、次のように述べた。
「人口減少問題はヨーロッパの一部の国ですでに経験しているところであるが、日本ほど事態が急激に進み、問題の深刻な国は世界に例を見ない。この問題を考えるに当たっては、モデルとなるような国は存在しないといわなければならない。したがって、日本が世界の先頭を切って、人口減少時代の国のあるべき姿を検討し、その未来像を示さなければならない。日本国の決める人口減少社会への対応策が、未来の世界によい先例を 開くものであってほしいと願うものである」
2021年のいま改めてこのくだりを読み返してみて、これは入管生活を終えて新しい人生を歩むに際しての「卒業論文」だと思った。問題提起を行なった責任をとり、私は2005年8月、世界の模範となる移民国家の創造を目標に掲げて外国人政策研究所(移民政策研究所の前身)を設立した。そこにこもって日本の外国人政策を根本的に見直す作業を進めた。そして2022年2月の英文図書『Japan as an Immigration Nation』の刊行をもって未来の世界に先例を開く移民国家理論の完成を見た。
老年に達した私は世界の最先端を行く移民国家ビジョンの先途を思うことしきりである。予期せぬ難問が待っているかもしれない。想像を絶するプレッシャーが我が身におそいかかるだろう。移民政策に消極的な姿勢の政治の壁を突き破れるか。一人旅が続く中、無理に無理を重ねた心身が激務に耐えられるか。コロナウイルスの直撃に見舞われた欧米諸国において移民排斥の考えが支配的になるのではないか。人類共同体社会を創造する夢がついえるのではないか。そんな悪夢にうなされる日々である。
心の葛藤は簡単にはおさまらない。しかし私は生来のオプチミストである。世界が移民政策で激動の時代に入った今こそ坂中英徳の真価が問われる時だと思いなおし、最後の力を振り絞って前に進もうと決意を新たにする。