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生きがいに満ちた論文人生

40冊余の著作物を発行した実績が物を言って、私は移民国家ジャパンの象徴的存在になるかもしれない。特に最新作の『JAPAN AS AN IMMIGRATION NATION』は世界に類書がないので「世界の移民政策理論の金字塔」と評価される可能性がある。

だが、業績が評価される時代は、私にとって人物評価が百八十度ほど転換する未知の世界だ。歴史的な業績を成し遂げた人間の晩年が恥ずべきものになることは枚挙のいとまがない。「晩節を汚すような人間になってはならぬ」と、いつも自分に言い聞かせている。

最近の私は、どのように生きれば人倫にかなう形で最期を迎えられるかについて真剣に研究している。坂中論文の著者の名を汚すことがないよう筋を通すこと、論文を書く力が尽きたと自覚した時には移民政策研究所の看板を下ろすこと、以上が私の思い描く引き際のシナリオである。

1975年の『今後の出入国管理行政のあり方について』から2019年の『日本型移民政策論集成』までの44年間、積み上げた著作物は、左翼と右翼の双方から身の危険を感じるような攻撃にさらされた。のみならず劣化が著しい知的世界は論文の存在自体を無視してきた。もとより論評の対象になることはなかった。前途が真っ暗の孤独感にさいなまれる日々が続いた。
 
しかし、10年ほど前に悟りの境地に達し、要するに彼らとは棲む世界が違う人間と割り切った。そして不屈の精神力で政策論文を書き続けた。いつの間にかこの世での評価などは気にならなくなった。いっぽうであの世での評価が気になるようになった。

2020年6月現在の私は移民政策研究所の所長として研究三昧の日々を送っている。独創的な論文に始まり独創的な論文で終わる人生――これ以上の生きがいに満ちた論文人生はないと達観している。

これは未来志向の論文を書いた思想家の特権であるが、書物に刻印された思想は22世紀に生きる世界の人々の生き方にまで影響が及ぶであろう。独創性に優れた論文で人類の未来永劫の存続の道を開いた人生を誇りに思う。