日本人を助けることができるのは日本政府だけ

坂中提案

本年5月29日の日朝政府間合意で、拉致被害者、日本人配偶者、北朝鮮残留日本人、行方不明など全ての日本人の北朝鮮からの帰国の道が開かれた。私は昨年12月14日、「一刻も早い日本人妻の永住帰国を求める」と題する要請文を安倍晋三首相に提出した。その要請文が今回の歴史的合意につながった可能性がある。以下にその全文を掲げる。

一刻も早い日本人妻の永住帰国を求める

安倍晋三首相は2013年5月20日の参議院決算委員会で「拉致問題は日本が主導的に解決しなければならない。残念ながら他国がやってくれるということはない」と答弁した。正しい認識である。日本人の命は日本人が守らなければならない。日本人を助けることができるのは日本政府だけだ。

私はかねてから「拉致、核、ミサイルの一括解決」という北朝鮮外交の基本方針について疑問を持っていた。北朝鮮の核とミサイルの問題は、日本にとって重大な問題であるが、日本だけでなく北朝鮮、韓国、中国、米国、ロシアの6カ国が関係する国際問題である。

関係国の利害が複雑にからむ核・ミサイルの国際問題と、もっぱら日朝間の問題の拉致問題の一括解決を図るというのは土台無理な話だ。そんなことをしていたらいつまでたっても拉致問題は解決しない。6カ国協議と日朝協議とは並行して進めれば筋が通る。

私はこの数年来、日本人妻および北朝鮮残留日本人の帰国問題と拉致問題の一体的解決を主張してきた。日本人妻、北朝鮮残留日本人および拉致被害者は北朝鮮に残留するに至った経緯は異なるが、日本政府が緊急に助け出さなければならない「日本人」であることに甲乙はないからだ。

2012年11月15日、16日の両日、モンゴルのウランバートルで開催された日本と北朝鮮の外務省局長級協議においては、その線に沿って建設的な議論が行われたと理解している。

北朝鮮が日本との国交正常化を真に望むのであれば、そのあかしとして北朝鮮に閉じ込められている日本人全員の出国を認めるべきだ。日本政府は、国交正常化交渉はそこから始まることを北朝鮮に迫るべきだ。

今日の世界では、自国民、外国人を問わず、すべての人の出国の自由は普遍的な権利とされている。世界人権宣言も国際人権規約もこれを明確に定めている。しかし、北朝鮮は世界でも数少ない出国の自由を認めていない国である。特に、外国人の出国を禁止している国は北朝鮮以外にないのではないか。

国際法に従い北朝鮮が外国人の出国を認めれば、日本人拉致の問題も日本人妻の帰国問題もすべて解決する。北朝鮮から出国したい日本人が出国し、北朝鮮に残りたい日本人が残ればいいのだ。

国交の正常化と人の出入国の正常化は不可分のものである。日本と北朝鮮が国と国との関係を正常化するということは、北朝鮮からの日本人の出国の自由が保障されることを意味する。もちろん日本からの在日朝鮮人の出国の自由も保障される。

日本政府が北朝鮮との国交正常化交渉を進めるに当たっては、まず在北朝鮮の日本人(日本人拉致被害者、日本人妻ら)の無条件の出国を前提条件とすべきだ。

日本人の出国の自由を保障しない国との国交正常化はあり得ないし、断じてあってはならない。

在日朝鮮人の夫に同伴して北朝鮮に渡った約1800人の日本人妻の多くは、1959年から1961年にかけて北朝鮮に入国した人たちだ。当時20代から30代だった日本人妻たちの現在の年齢は70代から80代である。ただし、若くして処刑された人、心労により早死にした人、自殺した人、餓死した人がいるから、現在生きている人は少ない。

100人ほどになった存命の日本人妻たちは、「日本の土を踏んでから死にたい」「両親の墓前で謝罪してから死にたい」と切実な胸のうちを語っている。

50年以上、日本に帰りたい一心で命をつないできた日本人妻たちは日本政府が助けてくれることをいちずに信じている。

願いを果たせず死を迎える人たちが増えている。生存者に残された時間はわずかしかない。これは緊急を要する邦人保護問題なのだ。

最近、北朝鮮政府は「日本人妻の帰国」を容認する姿勢を日本政府に伝えてきている。そのような北朝鮮側の配慮に対し、日本側もこたえるべきだ。

日本人妻の永住帰国が実現すれば、国民の北朝鮮に対する見方が好転し、本命の拉致問題の早期解決につながると考えている。

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