日本のジャーナリズムは死んだ

メディア 坂中提案

私の立てた移民国家ビジョンを真っ先に評価し、世界に発信したのは、先見の明のある外国人ジャーナリストたちだった。国内の知的世界で無視される状況が続くなか、世界のジャーナリストの評価がどれほど私の心の支えになったことか。

正道を歩むよう背中を押してくれた。「移民革命の先導者」「ミスターイミグレーション」の名で世界に紹介される光栄に浴した。それでもう後に引けないと思った。勇気を奮い起こし、日本の将来に対する責任を一身に引き受ける覚悟を決めた。

たとえば、2006年3月のジャパンタイムズに載った「The doomsday doctor」(救世主)という見出しの評論である。まず、その「救世主」という恐れ多い表題に驚いた。それを見て、日本の存亡の危機を救う責任の重さに身の縮む思いがした。その先見の明のある論考はその後の私の生き方に影響を与えた。

これを書いたのは英国の新聞・『ザ・インディペンデント』東京特派員のディビット・マックニールさん。同氏は、私が2005年3月に出版した入管時代の最後の著書で、2000万人の移民を理想的な形で受け入れた場合の「2050年のユートピア」を描いた『入管戦記』(講談社刊)を丹念に読んでおられた。冒頭、「坂中英徳は日本の人口危機を治癒しようとしているが、誰も注意を払おうとしない」と指摘し、次のように述べた。

〈坂中は最近、少子高齢化による地域社会の崩壊の危機と、牢固とした低い出生率(2004年の出生率は1.28に低下)に警鐘を鳴らし、官僚の殻を破って「50年間で2000万人の移民受け入れ」を示唆した。〉

〈坂中は『入管戦記』という著書で、慎重に言葉を選び、かつユートピア物語と断っているが、「日本は多民族社会となり、アジア全域から移民をひきつける国にならなければならない」と初めて提案した人だ。〉

いっぽう、日本のメディアに移民政策で論陣を張る勇気はない。唯一『ジャパンタイムズ』を除いて。

日本を代表する英字紙の『ジャパンタイムズ』は、前記2006年の記事を皮切りに、一貫して坂中移民政策論を好意的に紹介した。

たとえば、昨年5月17日には、「『人口崩壊の脅威が反移民の国民感情に打ち勝つ』と元入管幹部が語る」(Population fixes have anti-foreign bias,Official says)という表題の記事が一面に載った。私がその前日(5月16日)、日本外国特派員協会で行った講演のエッセンスを紹介したものである。

〈坂中の移民政策論は、長年、日本の知識人と日本メディアの世界に存在する反移民文化によって無視され続けてきた。政府は、人口崩壊の危機が切迫していることを認めず、大規模に移民を入れる移民政策ではなく、非現実的な解決策を採用している。激減する生産労働人口を補充するため高齢者と女性の一層の活用を図る政策は、何としても移民の入国の扉を開きたくないと考える政府の絶望的な闘いである。2014年5月13日に安倍晋三首相に提出された経済財政諮問会議の中間報告書は、「政府は地域社会の消失と生産労働人口の減少の危機を免れるため、日本の出生率を高めることにもっと力を入れるべきだ」と提言した。〉

〈坂中は言う。同報告書は、50年後の日本が1億の人口の大台を維持するため、日本の出生率を現在の1.41から2.07に引き上げる必要があると述べている。これも、将来の人口危機を回避し、大量移民の受け入れに追い込まれないようにする試みだ。同報告書が目標に掲げる2.07の出生率は「実現不可能」であり、人口問題の解決策にはならない。数年後には、日本は「移民国家」に成ると信ずる。〉

〈なぜ日本の出生率を向上させるのが難しいのかについて、「出生率の低下の問題はひとり日本だけの問題ではない。ほかの先進国、文明国も直面する共通の問題である。2.07の出生率は、数十年以内はもとより、100年後も達成できるとは信じられない。あまりにも不確定要素が多すぎる」と、坂中は述べた。〉

〈また坂中は、2020年の東京オリンピックのインフラ整備に必要な生産労働人口の不足を外国人技能実習制度の拡充で補う安倍内閣の方針を批判する。悪徳雇用主が実習生を食い物にすると語る。〉

続いてその2日後の5月19日には、「アベノミクスの成功は移民政策にかかっている」という見出しの記事が載った。これを書いたのはジャパンタイムズの吉田玲滋記者。

日本経済の将来がかかる「人口」と「移民」と「経済」の関係の本質に迫ったこの記事は内外に衝撃が走ったのではないか。

冒頭、移民政策研究所の所長の見解、「生産人口と消費人口の減少が続く日本では、移民の受け入れなくしては、アベノミクスの成長戦略は成功しない」という坂中英徳の持論を紹介した。

そして、「安倍首相が日本に永住する移民ではなく期間限定の外国人に限って受け入れることを決定をすれば、アベノミクスは失敗に終わるだろう」という坂中の警告の言葉で長文の評論を結んだ。

以上の記事を掲載した『ジャパンタイムズ』は別として、総じていえば、日本のジャーナリストは「人口崩壊と移民政策とアベノミクスの関係」にまで考えが及ばないのだろう。人口危機の本質に迫ろうとしない。人口減少社会における移民政策の必然性について語ろうとしない。

日本が直面する最重要課題に「見ざる聞かざる言わざる」の姿勢なのだから何をか言わんやだ。世界のジャーナリストから、「日本のジャーナリズムは死んだ」と批判されても弁解の余地がないだろう。日本のメディアの世界で「社会の公器」という言葉は死語になった。ジャーナリスト魂のある記者も見識のある記者いなくなった。

人口秩序の崩壊すなわち日本の崩壊が迫る一方、インターネットの世界で移民政策論争が始まったというのに、活字メディアが移民問題でオピニオンリーダーの役割を果たす気概はないようだ。日本のジャーナリズムがそういう体たらくだと、人口減少期の日本の未来はお先真っ暗と言わなければならない。

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