技能実習制度は人道問題
私は法務省入国管理局勤務時代から、「研修という名の労働」は絶対認めるべきではないと一貫して主張してきた。非人道的で、中間搾取のかたまりとも言うべき技能実習制度は一刻も早く廃止すべきだ。「勉学活動」と「就労活動」とを峻別して規制する入管法の精神に背くものであるからだ。今もその考えに変わりはない。いくら法律を改正して受け入れ機関への管理を強化しても、もともとが「木に竹を接ぐ」いびつな制度であるし、不法就労の隠れみのという制度の本質は変わらない。どうやっても不法残留者などの入管法違反事件と、賃金未払いなどの労働基準法違反の事件が続出するのは避けられない。
私が懸念したとおり、外国人研修・技能実習制度が始まってから、受け入れた研修生を低賃金で働かせる実態が浮き彫りになった。この制度下では、外国人労働者は、技能実習生の送り出し国、厚生労働省、法務省等の役人の天下り財団、さらに農家、水産業者、零細企業の経営者などの雇用主から、ひたすら搾取される構造になっている。「家賃」「食費」「管理費」などの名目で給料からさっぴかれ、実習生の手もとに残る賃金は極めて少ない。時給300円程度とまで言われる惨状だ。前借金やパスポート取り上げなどによってがんじがらめに縛る雇用主の下から逃れ、不法残留の道を選ぶ外国人が急増するのも当然のことだ。
この劣悪な技能実習制度があるために、経済界は外国人労働者と日本人との同一労働・同一賃金などは考えもしない。しかし、低賃金の外国人労働者に依存する経営体質が形成されると、回りまわって日本人の雇用条件の悪化につながることを理解すべきだ。
技能実習制度は、すでに国際的な批判を浴びており、アメリカ政府からは「強制労働に近い状態」、国連からも「奴隷・人身売買の状態になっている」などの厳しい批判を受けている。深刻化する人手不足を補う一時しのぎの措置ということだとしても、払う代償は余りにも大きい。日本の外国人処遇の歴史に汚点を残していると私は考えている。
これはもはや人道問題であり、このままこの「日本版奴隷制度」を温存すれば、本来あるべき移民政策を毀損することとなり、超少子化時代の日本にとっての命取りになるおそれさえある。「外国人労働者を奴隷として酷使する国」という悪名が世界に定着すれば、世界の有為の若者は日本に見向きもしなくなる。当然、そのような恥ずべき制度を使って外国人労働者を酷使する業界の企業イメージも大きく損なわれる。
奴隷制度と移民制度は相容れない。奴隷制度の廃止なくして移民国家・日本の健全な発展はない。