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座して死を待つべきではない

2014年2月13日の衆議院予算委員会において安倍晋三首相は、政界きっての移民政策通の古川元久委員(当時民主党)の「移民の受け入れ」に関する質問に対し、「国民的な議論を経た上で、多様な角度から検討していく必要がある」旨の答弁を行った。これは、移民政策に消極的だった政府の姿勢を百八十度転換した画期的な国会答弁である。特に、首相自ら移民の受け入れについて国民的議論を呼びかけたことの持つ意味は大きい。

それにもかかわらず、移民国家構想のような国事を語る知識人を私は知らない。日本の学者・知識人の大半が、日本が直面する最大のテーマである移民政策に言及することはない。たまに移民の入国問題に触れる人がいるが、「移民を入れると日本の安寧秩序が乱れる」「日本の純粋な文化が損なわれる」「もともと日本人は移民が嫌いである」など、根拠のない御託ばかり並べて移民開国を牽制する人が多い。日本の知識人の知的能力の低下は日本の政治家の政治能力の低下と比べて勝るとも劣らないものがあると感じる。

評論するしか芸のない大学教授に言いたい。人口崩壊と社会消滅の危機を乗り切るための国家戦略として、移民政策に匹敵するような的を射た策があるというのであれば御教授願いたい。なお、一国の総人口は「出生者」と「死亡者」と「移民」の数で決まるという法則に例外はないことを強調しておく。

前記首相の国会答弁を受けて、日本の政策決定に一定の影響力を有する知識人は何をなすべきか。第一に、人口崩壊の危機に対処する国家戦略の中心に位置する移民政策に関心を持ってもらいたい。第二に、移民の受け入れ問題と真剣に向き合ってほしい。

2014年の首相の歴史的な発言で移民政策議論を自由に行える環境が整った。移民の入国問題について各界の代表者の間で白熱の討論を期待する。その場合、人口と国勢の関係を客観的に認識できる立場にある有識者が国民の先頭に立ち、人口秩序の全面崩壊を免れるには移民政策の導入が不可欠との立場から議論を盛り上げてほしい。そのうえで国論を移民賛成でまとめてもらいたい。

まず、学者、ジャーナリスト、経済人が移民立国の方針で固まり、一丸となって国民の蒙を開き、時の内閣に政治決断を迫るのである。移民政策論争が熱を帯びるようになった今こそ行動を開始する時だ。

座して日本の死を待つべきではない。「移民政策はとらない」と主張する内閣が続けば、猛烈な勢いで国力が衰える。憂国の心がある国民にお願いがある。元号が改まる2019年5月1日を期し、移民開国の旗を掲げて立ち上がろう。世界のどの民族よりも寛大な心がある日本人の真骨頂を発揮し、世界の若者が日本永住を憧れる「移民の新天地」を建設しよう。

以下に述べることは、14年前の移民政策に関する理論構築で悪戦苦闘していた時に書いた、あまりに時代の先をゆく早熟な論文の話である。2004年1月の『中央公論』(2月号)に「外国人政策は百年の計である――目指すべきは『小さな日本』か『大きな日本』か」と題する論文を発表した。その論文は、移民政策の進め方について深く考えをめぐらしていた坂中英徳東京入国管理局長の努力の結晶である。当時、人口減少時代が間近に迫っていたので、移民国家構想を視野に入れ、人口問題の最有力の解決策としての移民政策に関する国民的議論を呼びかけたものである。

両極に位置する理念型として、人口の自然減に全面的にしたがって縮小してゆく「小さな日本」と、日本人人口が減少した分を移民人口で補って経済大国の地位を維持する「大きな日本」のふたつのシナリオを示したうえで、それぞれに対応する移民政策を論じた。「小さな日本」の場合は、人口の国際移動が日本の総人口に影響を及ぼさないようにすること、すなわち日本への人口移入を厳しく制限する移民鎖国政策の堅持である。「大きな日本」の場合の移民政策は、50年間で3000万人近い数の移民を受け入れるものである。

論文の主眼は、人口減少期の日本の針路と移民政策の理論モデルを提示し、国民的議論を喚起することにあった。しかし当時、国民からも知識人からも何の反応もなかった。法務省退職後も、移民政策論文を次々と発表したが、完全に黙殺された。懸命の努力が水泡に帰するような失意の日々が続いた。

中央公論に論文を発表した時から今日まで、人口と移民の関係を重視する私の考えは何ら変わっていないが、人口崩壊の危機はいっそう深まった。現在の日本は「衰退する社会」か「活力ある社会」かの瀬戸際に追い込まれている。政府が移民政策の導入をためらっている時ではない。移民立国で国論を一つにまとめる時である。全国津々浦々の国民が移民開国を求める声を上げてほしい。それを受けて坂中英徳移民政策研究所所長が移民立国を政府に迫る。

20代の若者を中心に移民賛成派が50%を超える全国紙の世論調査の結果や、少子化問題の解決が最大の政治課題に浮上しことなど最近の移民政策をめぐる諸情勢を勘案し、内閣総理大臣が直ちに移民開国の決断を下されることを心より願うものである。