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大潟村農業特区制度は画期的

法務省入国管理局の地方局長を務めた1997年から2005年までの間、私は日本人が消えていく地方の実情を間近に見てショックを受けた。地方で進む人口減少時代の脅威を肌で感じ、人口減少社会の国のあり方として、人口が減っても移民を入れない「衰退への道」と、人口減少分を移民で補って「活力のある社会を維持する道」の二つがあると、法務省主催の会議で力説した。

今は、移民政策の専門家の立場から、就業者人口の激減で存続が危ぶまれている第一次産業を救済するため、移民の積極的な活用を提案している。外国人を永住者の地位で迎え入れる移民政策の導入である。人間として、生活者として、社会の一員として、将来の国民として、地域住民が移民を温かく迎えるのである。

農業も林業も漁業も、人間が自然と共生し、自然に働きかけて食べ物を得るもので、1万5000年ほど前の縄文時代から続く伝統産業である。代々の日本人の叡智が結集された知識と技術を必要とするもので、俗に言われる「単純労働」なんかでは決してない。
問題は、日本人が守り続けてきた産業技術を継承する人がいなくなり、第一次産業地帯の村落が次々と消えてしまってもいいのかということだ。

就業者人口の減少が急激に進む農林業地帯では耕作放棄地が拡大し、日本人が営々と守り続けてきた水田と森林の荒廃が進んでいる。食料・資源の確保の観点のみならず国土・環境の保全を図る見地からも、存亡の危機にある農山村社会をなんとしても再生させなければならない。水産業も同じである。まわりを海に囲まれ、水産物資源に恵まれているというのに、就業者数も漁獲量も減り続けている。

残念ながら現代の若者は都会生活が好きなようである。都会生まれで都会育ちが中心の少子化世代が担う日本の将来は一体どうなるのだろうか?言うまでもなく、日本の若者がいなくなかったところに世界の若者は移住してこない。もはや何もかも遅きに失し、打つ手がなく、絶望的と言わなければならない。ただし、日本の若者と世界の若者が日本の田舎生活に魅力を感じるようになれば、一筋の光明を見出せるかもしれない。

生産年齢人口の激減期に突入した第一次産業を瓦解から救う手段はもはや移民政策しか残されていないのである。政府が直ちに移民政策の導入を決定し、世界人材の活用に乗り出すべきだ。外国人に産業技術を教える高齢者が存命のいま決断しなければすべてが水泡に帰する。

その場合、家族単位の脆弱な第一次産業の経営のあり方を根本的に見直し、都会の若者を惹きつけ、移民の生活を保障する経営体に改めることが必須条件だ。第一次産業革命を実行しなければ、世界各国との人材獲得競争で勝ち目はないと指摘しておく。

平成の日本人に農林水産業の抜本的改革を行う覇気がないのであれば、移民の受け入れは頓挫し、日本の第一次産業は人口の自然減の進行とともに滅亡への道を転がり落ちる。頑迷固陋の日本人が太古の昔から続いた農業・林業・漁業を自滅の道に追い込んだと、後世の日本人は当代の日本人の無策を憤るだろう。

待ちに待った農業再生プロジェクトが始動した。政府は2016年10月、後継者不足が深刻な秋田県大潟村の農業を救うため、外国から農業専門職を受け入れる農業特区構想を打ち出した。その際に政府が発表した文書の中で、「これらの問題解決のために、『外国人』の受入れと活用。ただし、『技能実習』では対応できない、『農業分野の専門人材』の就労を可能に!」と特記された。

この公文書を見た私は、「農業専門職」の在留資格(新設)を与えて外国人農業技術者の永住を認める「農業移民特区制度」の導入であると理解した。

この秋田県大潟村農業特区のアイディアは農業の起死回生のモデルとして全国の農山村にまたたく間に広がる。他方で農業再生の障害物であった技能実習制度は急速にすたれる。「良貨が悪貨を駆逐する」を地で行く画期的な移民受け入れ制度が発足した。これで日本農業は成長軌道に乗る可能性が出てきた。