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坂中論文を書く機会に恵まれなかった場合

人生のたそがれどきを迎えた坂中英徳に、政策提言の大半が実現するかもしれないという夢のような時代が訪れた。坂中論文に始まる論文人生の特色を一言でいえば、論理の一貫性へのこだわりが極めて強いということである。移民政策一本にテーマを絞り、44年かけてそれを深く掘り下げるものであった。

坂中論文を書く機会に恵まれなかった場合の坂中英徳はどうなっていたのだろうか。おそらく移民政策研究の第一人者の私は生まれなかった。生前に「ミスター入管」「反骨の官僚」「救世主」「革命家」「ミスターイミグレーション」等々の恐れ多い形容詞をつけられることはなかった。世界の主要国で反移民・人種差別を唱える勢力が勢いを増す中、人人類共同体思想の旗を掲げて立ち上がる日本人が出現することもなかった。

移民国家を建国するライフワークが大詰めを迎え、坂中論文のたどった歴史を回想することが多くなった。移民政策一筋の生き方を貫き、坂中論文と共に移民社会への道を切り開いた人生であった。いま、移民政策学の先鞭をつけた処女作は激動の生涯を終えようとしている。あるいは著者の死後も、日本を理想の移民国家へ導いた古典的論文は移民社会の成長を慈愛の目で見守っているかもしれない。