坂中論文の歴史的意義

2021年現在、『今後の出入国管理行政のあり方について』(坂中論文)を読んだ人はほとんどいないと思われる。もやは「幻の論文」なのだろう。最近、若い世代から坂中論文を読みたいと希望する声が急増中である。この論文は日本を移民国家へ導く原動力となった論文である。最新作『日本移民政策史』の第1部として「今後の出入国管理行政のありか方について」(1975年の出入国管理行政発足二五周年記念論文)を、同第2部として「今後の出入国管理行政のあり方について」(1977年の自費出版)を再録するゆえんである。
近年、坂中論文を書く機会に恵まれなかったならば私の人生はどうなっていたかを振り返る時間が増えた。移民政策研究の先駆者の私はなかった。「ミスター入管」「反骨の官僚」「救世主」「革命家」「ミスターイミグレーション」など数々の形容詞をつけられることもなかった。欧米の移民大国において反移民・人種差別を唱える勢力が台頭する中、人類共同体ビジョンの旗を掲げて世界に打って出る雄姿もなかった。