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国民の総意で移民国家の樹立を

移民政策一本の行政経験を活かし、移民法の制定、移民協定の締結、移民政策基本会議の設置、入管法の改正など移民法制のあり方を含む、直ちに移民国家への移行可能な具体策を提案している。人口秩序の崩壊という緊急事態に対処するための実践的移民政策だと自負している。しかし、著作の形で発表した日本型移民政策の提言は、2005年から今日まで、日本の知的世界で論評の対象になることはない。むろん政治の争点にのぼることもない。自分の非力に切歯扼腕する日々が続いた。

ところが、ひとり移民、移民と何年も言い続けていたら奇跡が起きた。13年前の国民のほぼ全員が移民政策に無関心の時代から、今日の移民受け入れに賛成が51%(2015年4月の朝日新聞の世論調査)へと、国民の多数が移民政策を評価する新局面を迎えた。

目標達成まであと一歩のところまでたどり着いたと思うが、ここで満足し、立ち止まってはならないと強く戒めている。移民政策から逃避する立場を決め込む政治の壁を破るためにも、さらに上の世論形成を目ざす。ただ、乗り越えるべきハードルは高いと感じる。国民の間に移民との共生関係を結ぶ積極姿勢はあまり見られない。どうすればこの強固なる世論の壁を突き破り、政府が移民開国を決断せざるを得ないところまで、国民が移民受け入れに積極的な世論を形成できるか。

じつは私は、国民の70%が移民受け入れに賛同する世論を形成し、移民政策を支持する国民の多数意見で政治を動かすという大きな夢を抱いている。事柄の性格上、移民立国をめぐる議論は民族感情がからみ、国論を二分するような激論や血が流れる抗争に発展することがままある。しかし、排他的な民族感情が欧米諸国と比較して希薄な日本おいては、たとえば白人至上主義にくみするトランプ大統領の米国やイスラム恐怖症の広がりが見られるフランスのように、移民政策で国民の分断を招くことにはならないと見ている。

欧米の移民大国が移民の門戸を閉ざす方向にある中、ひとり日本が民主的手続きにより平和的に移民国家へ移行すれば、それは国民の総意で移民国家を樹立した民主主義革命として世界のモデルケースになるであろう。

私は1975年の坂中論文以来、自分の立てた政策目標に追い立てられる数奇な運命をたどった。 高邁な理想を掲げたので、政策実現への航海は難航をきわめた。最近、16年ぶりに会った朝日新聞OBのジャーナリストから、「坂中さんは余りにも先を読んだ移民政策を立てられた。近く坂中時代が来ます。それに備えて健康に留意してください」という温かい言葉をかけられた。

命を大切に使うが、生への執着はない。無理難題を解決するため無理に無理を重ねて生きてきた。心の休まるひまがない人生を一気に走り抜けてきた。日本の移民政策のキーパーソンとしてやるべきことはすべてやった。移民鎖国の厚い壁をこじ開けるため、なみはずれた精神力が要求される政策論文の執筆に持てる力の全部を注いだ。孤高を持する闘いがエンドレスで続く中、捨て身で目標に向かって突き進むような身の処し方が限界に達する日は近いと感じている。しかし、計画性に欠ける無謀な生き方も自分が決めたことである。この年になると自分の処世術を変えることは難しいので自然の成り行きにまかせるほかあるまい。

30の時に移民政策の立案という一生をかけるテーマを見つけた。以後、国家の基本政策に関する提言をタイムリーに打ち出したが、最近は新しいアイディアが浮かばなくなった。創造力の源泉が尽きたのだろう。頭が鈍った老人が国家・国民に迷惑をかけてはならないと肝に銘ずる。引き際を真剣に考える時がきたようだ。

移民国家ニッポンのすばらしい未来は、地球市民としての教養とセンスがある若い世代が創り出してくれるだろう。世界に羽ばたく若い人たちの前に立ちふさがるような存在になってはならないと自分に強く言い聞かせている。

移民国家への転換について道理を尽くして説明した。正論を吐き、私なりの正義を貫けば、時代が動くと信じてここまで生きながらえてきた。移民政策オンリーの人生を心ゆくまで堪能した。

私の夢をひとつ言わせてもらえば、人生の最期のひとときは目標から解放されたい。無為の人として自然のもとに還りたい。もし許されれば、見果てぬ夢についてあれこれ空想したりしてひなたぼっこする隠居生活を味わってみたい。