北朝鮮残留日本人、日本人妻、そして拉致被害者を一人残らず救わなければならない

坂中提案

2012年11月15、16の両日、モンゴルのウランバートルで開催された日本と北朝鮮の外務省局長級協議において、日本側は「日本人妻の帰国」「日本人残留孤児」などの問題を提起し、北朝鮮側は協力すると応じたと伝えられる(2012年11月17日付の産経新聞)。

これは戦後の日朝関係史における画期的な出来事である。この3年、北朝鮮で生きている日本人妻、北朝鮮残留日本人の一刻も早い救出を日本政府に求めてきた私にとって感に堪えないものがある。

一般社団法人移民政策研究所では、北朝鮮帰還事業開始から50年目を期して、2009年12月14日、新潟港において帰国運動の犠牲者の霊の平安を祈る追悼法要をいとなむとともに、今も北朝鮮に幽閉されている日本人妻らを含む帰国者全員の解放を目指して「『あの日を忘れない』新潟港追悼集会」を開催した。

そして追悼集会で採択した鳩山由紀夫首相(当時)あての要請文「『日本人妻』の帰国を日朝の外交課題に」を中井洽拉致問題担当大臣(当時)に提出した。その中で次のように述べた。

〈現在も北朝鮮に軟禁されている帰国者全員を救出するため、まず「日本人妻」の帰国を日朝間の外交課題にあげていただきたい。この問題を日朝交渉で取り上げれば、膠着状態に陥った日朝関係を打開する糸口になるだろうと考えている。人質外交にたけた北朝鮮政府首脳は「日本人妻」を対日外交の切り札として温存してきたので、この話に乗ってくると見ている。〉

2011年12月14日の第3回「『あの日を忘れない』新潟港追悼集会」では、日本人妻の帰国問題に加えて、北朝鮮残留日本人(北朝鮮残留孤児を含む)の救出問題を提起した。当時の野田佳彦首相あての要請文「北朝鮮にいる日本人妻、北朝鮮残留邦人等の早期救出を求める」の中で次のように述べた。

〈そもそも北朝鮮帰国者問題の歴史を振り返ると、1954年1月6日、日本赤十字社が北朝鮮の朝鮮赤十字会に電報を打ち、「終戦後も北朝鮮に残留する日本人の引き揚げが許されるならば、その引き揚げ船を利用して在日朝鮮人の帰国希望者の帰国援助をしたい」という日本政府の意向を伝えたことから始まる。このように、当時の日本政府の主たる関心は、在日朝鮮人の北朝鮮への集団帰国ではなく、在北朝鮮の日本人の引き揚げにあった。〉

〈しかし、1959年12月14日から始まった北朝鮮帰還事業により在日朝鮮人の北朝鮮への帰国は実現したが、在北朝鮮日本人の帰国は、1956年に36人が帰ってきた以外に、実現することはなかった。その後は、日本政府が北朝鮮残留邦人の救出に動くこともなく、多数の日本人が北朝鮮に取り残された。〉

〈野田佳彦首相に緊急の提言がある。現在も北朝鮮に閉じ込められている日本人妻、北朝鮮残留日本人を救い出していただきたい。〉

それ以後、日朝間で日本人妻および北朝鮮残留日本人の帰国問題について水面下の交渉が持たれたようである。そして、このたびの日朝間の外務省局長級協議での合意に至る。

日本政府にお願いがある。政府間協議が再開された今こそ北朝鮮に外交攻勢をかけ、拉致問題を含む、戦後の日朝間の諸懸案の全面解決を図っていただきたい。日本人妻、北朝鮮残留日本人、そして国民の悲願である拉致被害者を一人残らず助け出してもらいたい。

北朝鮮が日本との関係改善を心から希望するのであれば、そのあかしとしてまず行うことは、北朝鮮に囚われの身となっている日本人全員の出国を許すことである。拉致被害者の無条件の帰国を認めるとともに、日本人妻の文字通りの帰国を認めることだ。70・80代の高齢の日本人妻は生きて日本に帰り、祖国で最期の時を迎えたいと切に願っている。

世界の常識が通用する国に北朝鮮が変われば、日本国民の北朝鮮を見る目も変わる。日朝国交正常化に向けた動きも加速するだろう。

北朝鮮から催促されるまでもなく、政府が人道的見地から、肉親の墓参りや日本人遺骨の返還を求めるのは当然である。しかし、いま政府が真っ先にやるべきことは、存命の北朝鮮残留日本人に救いの手をさしのべることである。祖国から見捨てられ、北朝鮮に置き去りにされた日本人は、日本に帰る日を夢見、筆舌に尽くしがたい厳しい生活を余儀なくされていると聞いている。

戦後日本が犯した最大の過ちである北朝鮮残留日本人問題を歴史の闇に葬らせるわけにはいかない。平成の世に生きる私たちは、せめてもの罪滅ぼしとして、過酷な国で懸命に生きている日本人を救わなければならない。

北朝鮮からの邦人の帰国が近いと予想して、2012年1月、移民政策研究所内に「日本人妻等定住支援センター」を設立した。

支援の対象者は次のとおりである。 ①日本人妻(日本国籍を有しない血統的日本人妻を含む)及びその子 ②北朝鮮残留日本人(北朝鮮残留孤児を含む)

2005年から日本人妻ら北朝鮮帰国者の定住支援にかかわり、北朝鮮事情に精通し、朝鮮語を話せる当センターの職員が、帰国をはたした日本人妻および北朝鮮残留日本人の生活相談やカウンセリング、日本語教育、家族との再会に向けた支援などを行う。

わたしたちは、受け入れ態勢を整え、北朝鮮残留日本人、日本人妻、そして拉致被害者のみなさんの「日本への帰還」を待ち望んでいる。

平成25年1月17日 一般社団法人移民政策研究所日本人妻等定住支援センター 代表 坂中英徳

(注)上記の文章は、2013年1月17日、安倍晋三首相、岸田文雄外相、古屋圭司拉致問題担当相あてに提出した要請文「北朝鮮残留日本人、日本人妻、そして拉致被害者を一人残らず救わなければならない」である。

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