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入管法の世界に単純労働という概念は存在しない     


    
 2019年4月、政府は外国人材の受け入れ拡大に向けて在留資格を大幅に拡大するとともに出入国在留管理庁を発足させるなど移民国家への第一歩を踏み出した。

 これについて政府が移民政策をとることを快く思わないメディアは、「単純労働に門戸開放」などと「単純労働」という言葉を使いつつ、反移民の世論を煽った。しかし私は、政府の新方針は、「熟練した技能を持つと認定された外国人に限って日本での永住を認め、家族の帯同を認める、事実上の移民政策への転換」と認識する。

 なお、政府の公式文章には「単純労働」という職業差別用語はない。今回の入管法改正においては「外国人材」という言葉を専ら使っている。「外国人労働者」という言葉の使用は避けているようだ。

 政府が在留資格の創設を検討しているのは、農業、介護、飲食料品製造業、建設、造船・舶用工業、宿泊、外食、漁業、ビルクリーニング、素形材産業、産業機械産業、電子・電気機器関連産業、自動車整備、航空である。みな、専門知識・技能・技術を必要とする職業であり、いわゆる「単純労働」ではない。むろん入管法の世界に「単純労働」という概念は存在しない。在留資格に該当する活動はすべて一定の知識や技術を要するものである。
 
 悪名高い技能実習制度の対象となる農業、漁業、介護などの業種も専門知識が必要な仕事である。留学生がアルバイトとして行なっているコンビニのサービス業も単純労働ではない。

 産業史をさかのぼれば、狩猟採集時代・農業革命時代・産業革命時代のいずれの時代も、「単純労働」も「複雑労働」もなく、人類は知恵をしぼって最先端の産業技術を駆使して生き延びてきたと私は認識している。「単純労働」という表現を用いる日本の新聞記者や知識人は、自分たちは専門知識を必要とする特別な職業に就いていると考えているのかもしれないが、農業・工業・商業などの実業に就いている人を見下す本音が出たのではないか。それは江戸時代の「士農工商」の考えとさほど変わらないもので、実業に就いている日本人の心を痛く傷つける職業差別発言であると指摘しておく。

 さらに言えば、外国人を「労働力」としてしか見ない国に世界からいい人材は来ない。外国人を低賃金労働者と見下す国民は異なる民族との共生関係を築けない。これは世界の移民政策の専門家の常識である。「外国人労働者」という言葉を大っぴらに使っているのは日本の報道機関くらいのものだ。

 今日、主要移民国家においては、さらなる移民の受け入れの是非が国を二分するほどの政治の争点になっている。しかし、最も移民を必要とする日本では「移民開国」か「移民鎖国」かの議論さえ行なわれていないのは誠に遺憾だ。政府は人口崩壊が刻々と迫るこの期に及んでも「移民政策はとらない」という立場を崩していない。政治家が移民問題に触れることをこれほど忌避するのは異常である。

 いっぽう、最近の世論の動向を見ると、若い世代を中心に移民受け入れに賛成の人が飛躍的に増えている。私は移民政策研究所のホームページに連日、移民政策論のエッセイをアップデートしているが、最近のアクセス数は一日あたり平均5000件と激増した。日本の若者の移民賛成の勢いはひとりも止められない。国が直面する政治課題で国民の声と政治家の声の乖離がこれほど大きな分野は存在しない。民主主義の根幹を揺るがすもので、政治家の猛省をお願いする。

 国の基本方針の歴史的転換を行なう以上、その賛否について国民的議論を尽くすべきだ。それをせずになし崩し的に移民国家へ移行してしまっては、その正当性が問われ、さまざまな摩擦や混乱が起きるなど、日本の未来に禍根を残す。建設的な議論を重ね、多くの国民の賛同を得て誕生する移民国家であれば、健やかに成長・発展するであろう。