1. TOP
  2. 政策提言
  3. 人類社会に単純労働は存在しない

人類社会に単純労働は存在しない

2018年10月、政府が打ち出した新しい外国人材の受け入れ政策に関し、政府が移民政策をとることを快く思わないメディアや知識人は「単純労働に門戸開放」などと盛んに「単純労働」という言葉を使っている。政府の新方針は「熟練した技能を持つと認定された外国人材に対して日本での永住を認め、家族の帯同を認める、事実上の移民政策への転換」と認識するのが正しい見方である。

政府が在留資格の創設を検討しているのは、農業、介護、飲食料品製造業、建設・造船・舶用工業、宿泊、外食、漁業、ビルクリーニング、素形材産業、産業機械産業、電子・電気機器関連産業、自動車整備、航空。これらの仕事に従事することのどこが単純労働なのか。人間の専門知識・技能・技術を必要とするこれらの職業は俗に言われる単純労働なんかでは決してない。

産業史をさかのぼると、狩猟採集時代、農耕時代、産業革命時代のいずれの時代も、人類は知恵をしぼって最善の産業技術を駆使して生き延びてきたと私は認識している。

新聞記者や大学教授などは自分たちだけが高度の専門知識を必要とする職業に就いているとでも思っているのか。およそ人間の行う仕事に貴賤も甲乙もない。たとえば、農林水産業は縄文時代から日本人が産業技術を継承・発展させてきた歴史的産業遺産である。自然の営みに感謝しながら食料を生産し、魚介を採り、樹木を育てるもので、日本人の叡智のかたまりの尊い産業である。このような第一次産業のなりわいをあたかも価値の低いもの、いわゆる単純労働とみなすのはまちがっている。それは先祖代々の日本人が引き継いできた万物有魂論の自然観に反し、日本の豊かな自然を冒涜するものだ。

日本人の心のふるさとが荒廃すれば日本人の心がすさむ。自然との共生思想が根底にある日本精神を子々孫々まで伝えるためにも、里山と里海に代表される「人間が自然に寄り添って生きる景観」を守る必要がある。後継者難の進行で日本の若者が総力を挙げてもそれが不可能ということであれば、世界から若手の有望株を「農業」や「漁業」の在留資格で受け入れ、速やかに「永住」を許可し、移民の地位を認めるしか農業と漁業が生き残る道はないのである。