人類共同体思想
日本の移民国家ビジョンの根本理念である人類共同体思想はどこから生まれたのだろうか。比較文明論の立場から日本型移民政策の神髄に迫る。
世界の移民政策の専門家は人類の多様性を強調し、多文化共生を目標にかかげる。それに対して私は、人類の同一性を強調し、人種・民族・宗教の違いをこえて人類が一つになる人類共同体の理念をうたう。
坂中移民国家ビジョンは、人類共同体国家の創設、地球規模での人類共同体社会の創成、恒久的世界平和体制の確立の三本柱からなる。すなわち、諸国民間の相互関係が深まる22世紀の新世界秩序の形成と移民黄金時代を視野に入れた地球共同体構想である。
それは日本人の持つアニミズム的自然観・宗教心から生まれたものである。1万5000年も太平の世が続いたとされる縄文時代(狩猟採集を生業とする新石器時代)に起源を有し、現代の日本人の心にも刻まれている「仏と神と自然は一体と考える日本思想」のたまものである。またそれは、自然に畏敬の念を抱き、人の和を重視する日本古来の日本人の精神生活にそうものである。
現代の日本人の心の奥には、文明社会では極めてユニークな宗教心、すなわち自然界に存在する万物を崇拝するアニミズム(精霊信仰)の世界観がある。動植物の仏心を描いた江戸時代の画家伊藤若冲の絵をこよなく愛する民族である。「生類憐みの令」 ( 1687年 ) を発布した異色の政治家 ( 徳川綱吉 ) を生んだ国である。「閉さや岩にしみ入る蝉の声」(松尾芭蕉の俳句)の情景を深く理解できる感性が日本人には備わっている。それは、生物学、化学、物理学など現代の自然科学が到達した自然認識とも一致する。
人類は多様な人種・民族・国民に分かれているが、そのおおもとは一つである。人類は生物分類学上ホモ・サピエンスという一つの種に属し、根の部分の文化と価値観は共通するところが大部分である。人種や民族や宗教が異なっても、人類はヒトとしてのアイデンティティを持ち、相互にコミュニケーションし、相互に共感し、相互に理解できる存在である。
私は八百万の神々と共生し平和に暮らした縄文人の思考を受け継ぎ、「人類は一つ。人種や民族の違いはあっても同じ人間。文化や価値観の違いはあってもわずか」という普遍的な人類像に基づき、全人類が平和共存する人類共同体社会の実現を目標にかかげる。
それは高邁な理想論なのかもしれない。しかし決して空理空論ではない。人類の根本精神に合致するものである。永遠の平和をこいねがう人類の悲願でもある。生物学的には同類である人類の本質を踏まえて考えると、日本人が人類共同体の創造を国家目標に定めても、それは現実味のない絵空事ではない。
百年単位の時間がかかるかもしれないが、和の心が豊かな縄文人の末裔たちが真摯に取り組めば、世界史を画する移民国家ビジョンが地球市民の人類同胞意識をかき立て、移民国家のユートピアが実現する可能性は十分あると私は考えている。