人類共同体・地球共同体・世界平和
移民国家の理想像を描くため千思万考につとめた私は、人類共同体社会の創造という崇高な世界ビジョンを世界の有識者に提案している。ところがまさにそのタイミングで、移民・難民をめぐる世界情勢が急転し、私が悠長に構えることは許されなくなった。というのは、人類共同体の創成を目標に掲げる日本の移民国家ビジョンが、今日の世界が直面する移民・難民問題を解決に導く世界的理念に発展する可能性が出てきたからだ。
日本の知的世界では私が主張する人類共同体構想はいつもの例に漏れず話題にもならない。しかし世界の知的世界おいては、「地球規模での人類共同体社会の創造」すなわち「人種・民族・宗教の違いを乗り越えて人類が一つになる世界の樹立」を提唱する坂中ビジョンに共鳴する知識人が徐々に増えつつある。私は確かな手応えを感じている。
13年前、私は欧米の移民国家の轍を踏んではならないと心に決め、日本オリジナルの移民政策の立案を志した。それが思いがけない好結果につながった。欧米諸国で排外主義と反移民勢力が台頭し、欧米の移民政策が行き詰まりの様相を見せる中、俄然、日本起源の人類共同体思想と移民国家ビジョンがクローズアップされることになった。
移民先発国の外国人処遇の歴史を概観すると、決して道理にかなったものばかりであったわけではないことが直ちに見て取れる。人種差別意識とイスラム教徒に対する恐怖心が国民の心に刻まれている欧米諸国では国民と移民の共生関係はほとんど進んでいないようだ。それどころか、高度文明を誇る欧米社会で広がりを見せている移民排斥運動に驚きを禁じ得ない。
私は既存の移民国家の歴史を反面教師とし、日本人の持つ普遍的な世界観が反映された移民国家の理念を打ち立てた。「万人は平等」と「人類は一つ」の日本的思考を移民国家の理念の根本にすえ、全人類が和の心で結ばれる人類共同体社会の樹立を国家目標に掲げる。懐が深い日本の移民国家思想は世界最高レベルの移民国家理論に発展する可能性を秘めている。
人種・民族・宗教に対する偏見が西洋人と比較して希薄な日本人が世界の誰よりも早く人類共同体社会をつくる可能性があると私は考えている。在日朝鮮人政策など日本型移民政策の経験に鑑みると、日本語という和の心がいっぱい詰まった言語環境の下で育った移民の二世以下の世代は日本社会に自発的に同化すると見ている。様々な民族の心を一つにする同化力の強い日本社会の特色に照らすと、日本の移民政策が地球時代の移民政策に新風を吹き込み、世界の移民国家のモデル国として屹立する時代は近いと考える。
さて、日本が主導した環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への加入と軌を一にして、日本が今後50年間で移民1000万人を秩序正しく入れる「移民大国」の道を歩めば、移民立国の理念を共有する主要国が環太平洋地域に集結する移民国家連合が形成される。それにとどまらない。加盟国の間で人の移動が激しくなり、各国の国民の間に一体感が醸成され、人類の夢である「太平洋共同体への道」が開かれる可能性がある。
日本政府にお願いがある。TPPが発効したときに移民国家宣言を行い、日本はカナダ、オーストラリア、ニュージランドなど代表的な移民大国と連携して環太平洋地域における人の移動の拡大と世界平和に貢献すると世界にアピールしていただきたい。
同時に、非欧米社会に誕生する異色の移民国家の存在意義を強調してほしい。人類共同体世界の創造という崇高な理想を追い求める移民国家日本の世界的地位は不動のものになろう。