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人類共同体の創成に挑む

白人至上主義に宥和的とされるトランプ米大統領の出現で、「アメリカは人種のるつぼ」という建国以来の移民国家の神話が崩壊した。そのいっぽうで、日本の移民政策のエキスパートが立てた人類共同体構想に世界の慧眼の士が関心を寄せている。

私は人口崩壊の危機が迫る日本を救いたい一心で、50年間で1000万人の移民を正義にかなう方法で受け入れる日本型移民国家の設計図を完成させた。これほど野心的な移民国家ビジョンは世界の歴史にもほとんど例を見ないのかもしれない。

ところが2016年に入ると、世界の移民大国が一斉に移民の入国規制へと方向転換した。これまで世界文明をリードしてきたアメリカ、フランス、イギリス、ドイツで異なる民族と宗教に対する寛容の精神が影を潜めた。トランプ米大統領の移民に対する常軌を逸した強硬姿勢が白日の下にさらしたとおりである。

排他主義のイデオロギーが世界中に蔓延するのを防ぐため、日本のミスターイミグレーションが世界に進出する。日本の精神土壌で生まれ育った日本風の移民政策の旗をかかげ、西欧諸国の移民政策が正常に復するように迫る。

ただし、移民鎖国を続ける日本政府には、トランプ米大統領の暴走に苦言を呈する資格はない。それどころか、「移民問題で国際責任を全く果たしていない日本は無責任きわまる」と怒った同大統領が、日本の首相に移民開国を迫る可能性がある。その一点についてはトランプ大統領に理がある。案の定と言うべきか。2018年6月16日のAFP=時事によると、6月8日・9日カナダで開かれたサミットでドナルド・トランプ米大統領が安倍晋三首相に対し、「日本に2500万人のメキシコ移民を送れば君は退陣」と発言したという。国際礼譲に反する暴言であるが、日本経済のアキレス腱を衝いた米国大統領の警告であると真剣に受け止めるべきだ。

日本政府にお願いがある。米国大統領の先手を打って、「経済大国で移民受け入れ能力が十分ある日本は、日本独特の移民政策に基づき大量の移民を正しく迎える用意がある」と、世界の人々に向かって宣言していただきたい。

移民恐怖症が世界中に広がる恐れすらある今日、日本の移民政策は日本の人口危機を救うものにとどまらない。世界の人道危機を救う一助となるものでもある。世界各地の移民希望者が絶望の淵にあるこの機を逃さず日本が移民国家の名乗りを上げれば、情に厚い日本人が世界的な移民・難民危機を救ったと世界史に燦然と輝くだろう。

私は、移民問題の解決で世界的使命が日本人に託されるのは天の配剤と受け止め、日本の豊かな精神風土から生まれた人類共同体の理念を世界の良心に訴え続ける。

私は2014年4月、南カルフォルニア大学日本宗教・文化研究センター主催の「日本の移民政策に関するシンポジウム」において基調講演を行った。

「Japan as a Nation for Immigrants :A Proposal for a Global Community of Humankind」のタイトルでスピーチした。約40名の研究者が熱心に聞いていた。会場から多くの質問が寄せられた。人類共同体の創成に挑む私の熱い思いは世界の知識人に十分伝わったと思う。

主催者のダンカン・ウィリアムズ南カリフォルニア大学准教授(日本仏教学の権威)は、「坂中さんの移民政策を世界に紹介する『小さな企画』です」といわれた。日本生まれで日本育ちのダンカンさんは謙虚な人だが、私にとってそれは「人類共同体思想を世界の知識人に披露する最高の舞台であり、『大きな企画』であった」と感謝している。何よりも、日本語のスピーチ原稿:「日本の移民国家ビジョン――人類共同体の創成に挑む」を格調高い英文にしていただいた。

そのとき、すばらしい英語に訳された人類共同体思想=「人種・民族・宗教の違いを超えて人類が一つになる移民国家の理念」が世界に飛び立ち、世界の移民政策にも影響が及ぶと予感した。近年、この論文を読んだ海外の有識者から、「大変感動しました。全面的に賛同です」という感想がいくつも寄せられている。

ところが周知のように、2016年を境に移民政策をめぐる世界の空気が一変した。トランプ大統領の米国を筆頭に欧米諸国で移民排斥を主張する極右勢力が台頭した。移民問題は世界が緊急に解決を迫られる人類的課題に発展した。そのとき私は、日本が人類共同体の理念を掲げて世界に打って出る時がきたと直観的に思った。

そして2017年1月。反移民のキャンペーンを張って大統領選挙に勝利をおさめたトランプ米大統領が真っ先にやったのは、イスラム教の7か国からの移民の入国を一時的に禁止する大統領令を発したことだ。その結果、移民国家を象徴する自由の女神は風前の灯火となり、米国を始め世界中が移民問題で大揺れである。しかし、移民鎖国を国是とし、これまで移民政策で世界になんら貢献してこなかった日本政府は、世界の移民問題で蚊帳の外に置かれている。残念至極としか言いようがない。

だからといって、日本の首相と米国の大統領が移民排斥の考えで一致していると、国際社会から受け取られることは絶対避けなければならない。なぜなら、人口崩壊の危機が迫る日本は世界で最も移民を必要とする国であるからだ。日本が考える移民政策はトランプ大統領のそれとは百八十度異なることを世界に積極的にアピールする必要がある。すなわち直ちに移民鎖国を解き、理にかなった移民政策で世界に貢献すると国際社会に約束すべきだ。

さて、近年はそういうことはなくなったが、10年ほど前までは、坂中移民政策論に関し、西洋の知識人から、「50年間で1000万人の移民を受け入れる能力が今の日本社会にあるのか。移民の受け入れも外国人との共生もほとんど体験したことがないのだから、それだけの度量の大きさを日本人に期待できるのか」という質問を受けることがしばしばあった。

そのような質問に対しては、日本文明の持つ底力を前面に出し、日本には1000万人の移民を受け入れるための産業基盤も高等教育機関も異なる民族をいたわりの心で受け入れる精神風土も備わっていると答えた。

特に、日本社会には「人の和」と「寛容の心」を重んじる伝統があること、多神教の日本人には多様な価値観や存在を受け入れる「寛容」の遺伝子が脈々と受け継がれていることを強調した。

さて、前述したように、坂中移民国家構想をめぐる状況は、10年前とはすっかり様変わりした。最近の私は、米国、フランスなどで見られる移民排斥と反イスラムの動きに対する批判を強めるとともに、日本の寛容な知的風土の産物である人類共同体思想で理論武装し、移民開国の決断を日本政府に迫っている。

この13年間、移民国家のあるべき姿の理論構築に努力してきた今の私は、日本の移民国家ビジョンの理論レベルは欧米諸国のそれよりも高いと言い切る自信がある。