なぜ永住外国人は日本文化のとりこになるのか

外国人行政を担当する国家公務員として、退職後は移民政策研究所の所長として、在日コリアンをはじめ様々な国籍の永住外国人と親しく懇談した経験から、日本という小宇宙には外国人を日本に引き寄せ、外国人を日本に一体化させる不思議な力があると感じている。いったい全体どのようにして日本という国は外国人を惹きつける魔力を身につけたのだろうか。以下は私の仮説である。
1万5000年間も平穏な生活が続いたという縄文時代から育まれてきた「自然との融和の精神」が、現代の日本人の心の奥底にも刻まれている。また、日本人の心の中には原始以来の八百万の神々が鎮座している。それは、多様な価値観や存在を受け入れる「寛容の遺伝子」でもあるかのように、脈々と受け継がれてきた。そして長い年月を経て永住外国人が日本社会に自然にとけこむ同化力の強い社会が形成されたのではないか。たとえば、当初は強烈な反日感情を抱いていた在日韓国・朝鮮人も、時間の経過とともにも自然と日本社会に同化していった。
いっぽう日本人の外国人観を見ると、大量の異民族の流入も、外国勢力による侵略も支配も受けなかった歴史が幸いして、外国人に対する恐怖心や排外的感情が比較的希薄である。
私の親しい韓国人、中国人、インド人、米国人は、信義を守る日本人、寛容の心がある日本人、情がこまやかな日本人、穏やかな人柄の日本人に敬愛の念を持っている。四季があって変化に富む自然、美しい田園や里山の風景、まとまりのある社会、安寧秩序が保たれた社会を気に入っている。アニメも料理もファッションも祭りも大好きである。
移民の二世以降の世代が日本の小中学校で勉強し、人種や宗教による差別のない日本社会で成長していけば、生まれ育った日本に愛着を覚え、日本人と心がとけあうだろうと見ている。近未来には世界初の人類共同体の成立も視界に入ってくると考えている。
近年、さまざまな国籍の永住外国人と日本の移民政策について意見交換している。彼らは口をそろえて言う。「寛大な心がある日本人は移民を上手に受け入れる」「日本人と移民が協力すれば世界初の人類共同体社会をつくれる」。そのうえで、私の立てた日本独自の移民政策に対する熱烈な支持を語る。在日外国人の世界で日本の移民開国待望論が高まっていると感じる。
世界の諸民族と比較して日本人は尊大な民族でも高圧的な民族でもないと認識している。概して言えば、日本では、縄文・弥生の時代から、先住民族と新参の移住者とが共生関係を築いていたようである。原住民と移民とが激しく戦ってどちらか一方が皆殺しの目にあうことはほとんどなかったのではないか。縄文人の子孫など各民族の末裔たちが現に日本に相当数存在する事実によってそれは証明される。
英国は何度も異民族に征服された恐怖体験があるので、イギリス人の外国人に対する見方はどこか冷たいところがあると感じられる。一方で、大英帝国の子孫であるから異なる民族間の戦争をけしかけて漁夫の利を得るなど異民族支配に長けた面が見られる。
漢民族は万里の長城を築いて異民族の侵入を防ぐ一方で、中華の意識に基づき異民族を見下す態度をとり続けてきた。現代の中国人は中華思想にこりかたまったエスノセントリズムの世界チャンピオンである。また、中国共産党政権は朝鮮族やチベット仏教徒を根絶やしにする少数民族対策を強引な手法で進めている。
そのような両民族と異なり、日本人は「異なる民族」を暖かい眼差しで受け入れてきた。大昔から日本人は、異国から海を渡ってきた異人を客人として敬愛の念を持って迎え入れた。江戸時代の鎖国下にあっても、流れ着いた異国船の船員を人道的に扱った。
また、日本人は「中華思想」や「選民思想」とは無縁である。尊大な態度が目立つアメリカ人、ロシア人、中国人とは真逆で、世界の主要民族の中で日本人は謙虚で穏健な民族の部類に属するのではないか。
人類史を振り返ると、民族や宗教の相違が引き起こした戦争の連続であった。しかし、日本列島が戦場と化した歴史に限れば、日本人は異なる民族との戦争も外国部隊による占領も、先の世界大戦以外に経験していない。島国という地理的条件も有利に働いて、日本人は純真な心で異国の民と向き合う民族性が形成されたのではないか。
私たち日本人は、外国の文化も宗教も広い心で受け入れ、それを日本風にアレンジし、自分たちのものにしてきた。移民の受け入れについても礼儀正しく迎え入れ、移民との良好な人間関係を築くと考えている。