「日本人の共同体」から「人類の共同体」へ

日本の知的世界において坂中英徳の人類共同体思想は言葉のはしにものぼらない。人類の未来を展望する坂中移民政策論は日本が当面する直近の問題にしか頭の及ばない学者やジャーナリストにとっては想像を絶する思想哲学なのだろう。他方、世界の知的世界おいては「地球規模での人類共同体社会の創造」――つまり「人種・民族・宗教の違いを乗り越えて人類が一つになる地球市民共同体社会の樹立」を提唱する坂中ドクトリンに共鳴する知識人が増えつつある。私は人類共同体ビジョンの前途に確かな手応えを感じている。
国家公務員生活を終えた2005年4月。白豪主義に象徴される白人至上主義の考え方が根強く残る欧米の移民政策の轍を踏んではならぬと固く誓った。そして西洋とは異なる日本独自の移民政策理論の構築を目ざした。以後、日本人の感性に訴える論文をひたすら書いた。そして2020年2月、人類共同体社会の創造という日本人の夢が詰まった移民国家ビジョンを世界の識者に披露した。
移民政策理論の金字塔「Japan as an Immigration Nation:Demographic Change, Economic Necessity, and the Human Community Concept」(LEXINGTON BOOKS 2020)の出版だ。
この本の眼目のセオリーは副題の「the Human Community Concept」(人類共同体の概念)である。反移民の声の異常な高まりが見られる欧米社会が、人類共同体社会の創造という人類史を画する坂中ビジョンにどのような反応を示すのか興味がある。
移民鎖国を続ける国の住人である私がなぜ人類史に輝く理想を掲げて世界に打って出たのか。100年後の世界の姿を想像すると、「人類は平等で一つ」という人類像を抱く日本人なら人類同胞意識を持つ地球市民に大化けし、人類共同体社会を創る可能性がある。
他方で宗教と人種における優越的感情が本性としてある西洋人が人類共同体社会を創るのは至難の業である。そのためには西洋人の心に染みこんでいる優越的・排他的な民族性を拭い去る必要があるからだ。以上の洋の東西の精神風土の違いが私の脳裏に刻まれている。
人種や宗教に対する偏見が西洋人と比較してあまり見られない日本国民が世界の先頭を切って人類共同体社会を樹立するという私の信念は微動もしない。戦後の在日朝鮮人政策に顕著に見られるように、坂中英徳の思想が濃厚に反映された日本の移民政策は少数民族問題を円満解決に導いた偉大な実績を誇る。日本語という和の心が詰まった言語環境の下で育った移民の二世以下の世代は日本社会に自発的に溶け込むと自信を持って言える。
様々な民族の心を一つにする同化力の強い日本語と融和力にすぐれた日本社会の特色を総合的に勘案して世界の未来を展望すると、日本の移民政策が世界の移民政策の根本的な変革を迫り、移民国家日本が世界のモデル国として君臨する時代が訪れるだろう。
世界各地で移民が主役を演じる百年後には人類共同体哲学が感動の嵐を巻き起こしている可能性があると私は考えている。