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「世界」の特集「移民社会への覚悟」に載った小論文

「世界」(2018年12月号、11月8日刊)に私の移民政策論が掲載されています。「日本型移民社会は可能か」というタイトルの文章です。今まさに国会で移民政策をめぐる議論が沸騰するタイミングで、移民政策研究所所長がこれだけは言っておきたいと思っていることを綴った論文です。渾身の力を込めて書きました。以下はそのエッセンスです。

(1)私に残された課題は、日本社会を、異なる民族と宗教に対する寛容の精神が後退しつつある現在の国際的な動向と反省を踏まえ、新しい移民社会として生まれ変わらせることです。

(2)今後、少子化傾向は長期に及ぶと考えられます。移民を受け入れる社会的基盤として、移民が働くための産業基盤や、日本語教育などを実施するための教育機関も整っています。そして何よりも、礼節を知る日本人には移民の立場を思いやる心があります。

(3)人口動態は、「出生者」と「死亡者」と「移民」の三要素で決まります。現状のままでは今後100年間、出生数が死亡数を大幅に下回るであろう日本では、移民政策をとる以外に人口の自然減の幅を小さくする手立てはありません。国民と政府が、移民政策がもたらす経済的・社会的効果を正しく認識し、タイムリーに移民政策を打ち出せば、経済は必ず安定軌道に乗るでしょう。

(4)これから生産人口と消費人口がとてつもない勢いで減少していくのに、どうして経済成長が展望できるでしょうか。これは経済学の常識です。人口激減期に突入した日本で、年金・保険などの社会保障制度の維持や、税収・生産・消費などの国家財政の問題など、「人口が減ることによって必ず発生する問題」は、もはや移民政策でしか解決できません。

(5)私は法務省入国管理局勤務時代から、「研修という名の労働」は絶対認めるべきではないと一貫して主張してきました。非人道的で、中間搾取のかたまりとも言うべき技能実習制度は一刻も早く廃止すべきです。「勉学活動」と「就労活動」とを峻別して規制する入管法の精神に背くものだからです。

(6)政府が移民政策をとることを快く思わないメディアは、「単純労働に門戸開放」などと「単純労働」という言葉を使いつつ、反移民の世論を煽っています。しかし私は、政府の新方針は、「熟練した技能を持つと認定された外国人に限って日本での永住を認め、家族の帯同を認める、事実上の移民政策への転換」と認識するのが正しい見方であると思います。

(7)国の基本方針の歴史的転換を行なう以上、その賛否については国民的議論が行なわれるべきです。首相は革命的な移民政策をとることの是非について国民の信を問うべきです。それをせずに、なし崩し的に移民国家へ移行してしまっては、その正当性も問われるし、さまざまな摩擦や混乱など、日本の未来に禍根を残すことになります。建設的な議論を重ね、多くの国民の賛同を得て誕生する移民国家であれば、健やかに発展します。

(8)「日本型移民社会」とは、欧米の移民国家が移民の社会統合に苦悩している状況に学び、日本的な「和」を重視しながら、社会的包摂を政策的にしっかりと保障していく社会です。まず、日本語や社会的慣習についての教育から始まり、専門知識や技術の習得など職業訓練を経て、それぞれの分野で活躍してもらい、安定した生活ができるようになった3年後、5年後というような段階で、永住を許可し、希望すれば国籍を取得できるようにする。

(9)日本の移民受け入れ制度の大枠を定める基本法として「移民法」を制定する必要があります。日本の移民政策の基本理念として、公平・公正な立場から世界の多様な国籍の人々を幅広く受け入れ、世界各国との友好親善関係を深めるとともに、世界平和に貢献することを規定する。さらに、国籍・民族・人種・宗教の異なる人々が日本で平和的に共存する「人類共同体社会」の実現を国家目標とする旨を移民法の条文でうたうならば、国際社会において模範となる「移民国家宣言」となるでしょう。

(10)これからの日本は若年人口の激減と高齢人口の激増が重なる人口秩序の崩壊が避けられない以上、4000万の人口減が政治・経済・財政・社会・国民生活・防災体制などに及ぼす影響は想像を絶します。移民政策は不可避ですが、日本の延命策としてはこれだけで十分とは言えません。明治以降続いてきた人口増時代に形成された人生観・生活様式から政治制度・産業制度・地方制度・教育制度などの各制度を根本的に見直す必要があります。これは日本の歴史始まって以来の大革命に発展します。

(11)多様な移民を迎え入れた日本社会は、面白い、活力に富む社会になっていくに違いありません。人口減と閉塞感に直面する日本の若い世代に、多様な移民社会は生きる夢と希望を与えると思います。